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1 :名無し 2011/12/16(金) 17:06:24.26 ID:+9B/ba1D0
高橋「本当にこっちで良かったんでしょうか…」

高橋は不安げに康を見上げ、途方に暮れた。

秋元P「まったくこれだから警察は…」


康は苛立った様子で小刻みに地団太を踏んだ。
先ほどから忙しなく眼鏡を上下させたり、大げさにため息をついたりしている。
それは彼にすれば珍しい仕草であった。
日頃温厚であるはずの康がここまで怒りを露にしているのは何故なのか。
もうかれこれ一時間半もの間、2人は警察署内をたらい回しにされているのだった。
体力に自身のある高橋だが、警察という慣れない雰囲気の中にいるせいか、すでに疲労困憊である。

高橋「やっぱりさっきの角を曲がるんでしたかね?どんどん倉庫みたいな場所に来ちゃってますし」

それでも高橋は康を気遣い、意識して明るい声で言った。

秋元P「そうかもしれないね。案内表示すらないなんて不親切極まりないな、警察は」

康が本日何度目かのため息をつこうとしたその時だった。



2 :名無し 2011/12/16(金) 17:07:13.11 ID:+9B/ba1D0
雅「あの、もしかして未詳をお探しですか?」

どこから現れたのか、制服姿の若い女性がにこやかに2人へ話しかけてきた。

高橋「未詳…はいそうです。わたし達そこへ案内されて来たんですけど、迷っちゃって」

雅「それでしたら上から話が通って来ております。こちらのエレベーターへどうぞ」

女性が指し示したのは、普段高橋が見慣れているエレベーターとは違うものだった。

秋元P「エレベーターって君…これは貨物用じゃないか」

康が呆れ顔で抗議する。

秋元P「これに乗れというのか」

しかし女性はそんな康に臆することなく、笑顔でエレベーターに乗り込んでしまった。
高橋も慌てて女性の隣に並ぶ。

高橋「秋元さん、仕方ないですよ。案内してもらうんですから素直に従いましょう」

高橋の呼びかけに、康も渋々エレベーターに乗り込んだ。
女性は慣れた調子で床に投げ捨てられていたスイッチを拾い上げ、エレベーターを操作する。



3 :名無し 2011/12/16(金) 17:07:59.44 ID:+9B/ba1D0
着いた所は、先ほどの場所とさほど変わらない、倉庫のような広い空間だった。
壁際には幟やカラーコーン、交通安全を謳った垂れ幕などが雑然と置かれている。
中央に申し訳程度にデスクが集められ、電話やパソコンの類が置かれていることから、かろうじてここが機能している部署なのだと見てとることができた。

雅「入りまーす!AKB48の高橋みなみさんとそのプロデューサー秋元康さんが脅迫状のことでご相談があるとのことでご案内致しました。それではお2人、張り切ってどうぞ!」

女性はどうやら決まり文句らしい言葉を大声で述べた。
高橋と康が動揺していると、人の良さそうな顔をした初老の男性がデスクからゆったりと立ち上がった。

野々村「キャッ、雅ちゃん」

男性は案内してくれた女性を見ると、乙女のような仕草で照れた笑いを浮かべる。
その後2人は合図のようなものを送り合い、高橋と康のことは目に入っていないようであった。
男性がさり気なく左手の薬指にはめていた指輪を外し、スーツのポケットに仕舞うのを高橋は見逃さなかった。
もしかしてこの2人は、不倫関係にあるのだろうか。

秋元P「あの…」

2人の様子を窺っていた康が、堪りかねて口を開く。



4 :名無し 2011/12/16(金) 17:08:03.40 ID:sbhrUDY90
メッシ落ちか


5 :名無し 2011/12/16(金) 17:08:27.58 ID:c/cVQZDTO
>>1
新作?



6 :名無し 2011/12/16(金) 17:08:49.77 ID:+9B/ba1D0
秋元P「聞けばここでご相談に乗っていただけるということで参ったのですが?」

野々村は慌てて高橋達に向き直ると、ようやくそこで挨拶をした。

野々村「そうですそうです。あ、申し送れました、係長の野々村です」

案内してくれた女性は少し拗ねた表情を浮かべると、さっさとエレベーターに乗り込み、どこかへ行ってしまった。

秋元P「よろしくお願いします。早速なんですが、聞いていただけますか?」

野々村「それではどうぞこちらへね、お座りください。あ、瀬文くん?お茶淹れてくれるかな?」

野々村の呼びかけに、高橋達が来たときからずっと直立不動の体勢を取っていた短髪の若い男が、軍隊のような返事をした。
高橋は先ほどからその男が気になっていた。
なぜだか男は高橋を睨むように見つめてきていたのだ。
高橋は彼の視線に気付かないふりをし続けていた。



7 :名無し 2011/12/16(金) 17:09:27.86 ID:+9B/ba1D0
野々村の示したソファに腰を下ろす。
ここへ来る前にあちこちで同じ説明をしていたため疲れたのか、康は高橋から話すよう目で合図してきた。
高橋はそんな康に無言で頷き返すと、野々村に顔を向けた。

高橋「実は数週間前、あたしに脅迫状が届いたんです」

野々村「ほほぉ、それで今日は未詳に犯人を逮捕して欲しいとの依頼ですかな?」

高橋の真剣な眼差しに対して、野々村の態度にはほとんど緊張が感じられない。
しかし彼女はめげることなく、アイドルとしての仕事の時には使わない重々しい声で続けた。

高橋「もちろん犯人逮捕はしてもらいたいのですが、一番心配なのは他のメンバーにまで被害が及ぶことです。脅迫状はあたし宛の一通だけでなく、他のメンバー宛にまで届くようになりました。内容もだんだん過激になってきていて…」

高橋「だからお願いします。正直犯人が誰なのかなんてあたしには興味ありません。それよりもまず警察のお力で、メンバーに危害が加えられるようなことがないよう、守っていただきたいんです」

高橋はそう言って深々と頭を下げた。



8 :名無し 2011/12/16(金) 17:09:34.19 ID:LVvTpx420
>>1
新連載キターーーーーーーーーーーーーー



9 :名無し 2011/12/16(金) 17:09:56.40 ID:FQHIhF5BO
犯人はヤスシ


11 :名無し 2011/12/16(金) 17:10:36.71 ID:+9B/ba1D0
野々村「わかりました。要するに高橋さんには今、危険が迫っている。そのため我ら未詳にボディーガードになってもらいたいと」

高橋「ボディーガードなんてそんな大げさなものじゃなくてもいいです。ただあたし、脅迫状が届いてから毎日本当に不安で…。だけど警察が目を光らせてくれているとなれば少しは安心できるかなって。その程度なんです」

高橋は早口でそう説明した。
野々村は可愛い孫でも見るかのような笑みを浮かべ、うんうんと何度も頷く。

野々村「わかりました。AKB48さんといったら今や国民的アイドル。皆さん本当に可愛らしくて、雅ちゃんもあなた方のファンなんですよ」

――雅ちゃん…さっき案内してくれた女性のことか。

高橋は先ほどの女性の顔を思い浮かべた。
野々村は彼女の名前を口にする時だけ、妙に目じりを下げて、甘い口調になっていた。

野々村「そんなAKB48さんに危険が及ぶとなったら最早日本の一大事。日本のため、雅ちゃんのため、男野々村、全力で皆さんをお守り致しましょう!」

なぜだか今日に力強い話しぶりになった野々村に、一抹の不安を感じながら、それでも高橋は希望に胸が躍った。



12 :名無し 2011/12/16(金) 17:11:31.04 ID:+9B/ba1D0
高橋「じゃあお力になっていただけるんですね」

野々村「はい、必ずや」

強い口調を通り越して、最早歌舞伎役者のような言い回しになってしまった野々村が、大きく頷く。

高橋「良かった秋元さん、これで秋元さんも安心できますね」

高橋は隣に座る康へ笑いかける。
しかし康の表情は曇っていた。

秋元P「失礼ですが、この部署にはお二方しかおられないのですか?」

そう言って康はやや不躾な態度で、野々村と少し離れた場所に立つ例の短髪の男とを見比べた。

秋元P「ご存知とは思いますが、AKBは大所帯のアイドルグループ。お2方だけで彼女達の護衛をするには無理があるかと…」



13 :名無し 2011/12/16(金) 17:12:33.95 ID:+9B/ba1D0
野々村「いえいえもう1人、当麻くんと言って24歳のギャルがいましてね、彼女がまた中々の切れ者でして…」

高橋「あの、今日はその当麻さんという人はいないんですか?」

野々村「もうすぐ来ると思うんですがね…どうだったかな瀬文くん?」

野々村が尋ねると、男は静かに首を横に振った。

瀬文「いえ、自分は当麻には興味がありませんので」

高橋はそこで初めて瀬文と呼ばれる男の顔を見た。
無表情で立つ瀬文の顔には、何を考えているのかわからない独特の怖さがある。
体つきは細いが、スーツの下には鍛え抜かれた筋肉が潜んでいるようで、一部の隙もないように窺えた。
高橋と目が合うと、瀬文はすっと視線を逸らす。

その時、背後でエレベーターの動く音が聞こえた。



14 :名無し 2011/12/16(金) 17:13:13.27 ID:+9B/ba1D0
当麻「すみません、病院行ってたら遅くなりました」

やって来たのは野暮ったいスーツ姿に、真っ赤なキャリーバッグを引いた若い女性であった。
高橋の目が、一瞬で彼女に釘付けになる。
女性の髪はぼさぼさで化粧も薄く、あまり身なりに気を使っていないことが見てとれる。しかし高橋が興味をそそられたのは、彼女の左腕だった。
ギプスで固められ、大げさなほどの包帯で肩から吊っている。
一体どれほどの大怪我をしたのか。
見ていてとても痛々しい姿であった。

野々村「そういうことなら構いませんよ。さっそくだけど当麻くん、お客様が来てるからちょっとこっちいいかな?」

野々村がそう言うと、当麻と呼ばれた女性がその姿からは想像もつかない素早さで駆け寄ってきた。

当麻「事件ですか?何々気になるぅ~」

上司である野々村に対してくだけた口調で話すあたり、当麻の大物ぶりが窺い知れた。
高橋は立ち上がり、当麻に頭を下げた。



15 :名無し 2011/12/16(金) 17:13:55.44 ID:+9B/ba1D0
野々村「何だか脅迫状のことでお困りでね、未詳で護衛することになったんだよ」

当麻「脅迫状?今時脅迫状ってどんだけ頭悪い犯人なんすかね」

なぜか脅迫状がツボにはまったらしく、当麻はにやにやと笑っている。
しかし高橋の顔を見た途端にその笑顔は引っ込み、驚きの表情へと変わった。

高橋「あの、どうかしたんですか?」

当麻「えー?AKBの高橋みなみさん…通称たかみなさんじゃないですかー?」

高橋「あ、よろしくお願いします」

当麻「それでこちらがプロデューサーの秋元康さん。ですよね?ね?」

当麻の馴れ馴れしい態度に、康は困惑の表情を浮かべた。
しかし当麻は気にすることなく、野々村を無理やりずらして開けたスペースに腰を下ろし、高橋にぐっと顔を近づけてくる。

高橋「……」

その瞬間、当麻から発せられる強烈なにんにく臭に、高橋は思わず身を引いてしまった。



16 :名無し 2011/12/16(金) 17:14:27.86 ID:+9B/ba1D0
当麻「マジでお2人、超有名人じゃないですかー?あ、申し送れました警視庁公安部第五課未詳事件特別対策係の当麻です。お会いできて大分光栄です」

当麻はそう言って、遠慮のない視線で高橋をじろじろと観察する。

高橋「は、はぁ…」

瀬文「当麻!お2人はご相談にいらしているんだ。失礼だろ!」

当麻「チッ、うるせーなハゲ黙ってろよ!」

当麻と瀬文が睨む合う。

――もしかしてこの2人、仲が悪い?

高橋は性格上、2人の間に仲裁に入りそうになったが、しかし今日は依頼人の立場ということを思い出し、ぐっと堪えた。
野々村は慣れているのか顔色1つ変えずに、淡々と説明する。

野々村「まずは犯人逮捕うんぬんの前にね、AKB48さんの安全を第一に考えて捜査もしてこうとね考えているんだけど、どうかな当麻くん?」

当麻は野々村に向き直ると、軽く頷き、再び高橋に顔を近づけた。



17 :名無し 2011/12/16(金) 17:15:00.05 ID:+9B/ba1D0
当麻「で、その脅迫状ですけど、なんだかすごーくおかしなことが書かれていたってことないですか?」

高橋「はい、そうなんです。でもなんでわかったんですか?」

当麻「ここは普通の刑事事件では手に負えない、特殊な事件を扱った部署なんですよー。そんな未詳に回されてくるくらいですから、だいたい想像はつきます。今その脅迫状はお持ちですか?」

高橋「はい、これなんですけど…」

高橋は鞄から数枚の紙を出すと、当麻に手渡した。
警察署に来てからこれを見せるたび、ただの悪戯だろうと一蹴されてきた脅迫状だ。
案の定、脅迫状を読む当麻の顔が、次第に険しくなっていく。



18 :名無し 2011/12/16(金) 17:15:27.57 ID:+9B/ba1D0
1通目。


『高橋みなみさんへ

次の握手会を中止しなさい。
もし中止されない場合には、こちらは然るべき措置を取ります。
しかしなるべくならあなたを傷つけたくはない。
覚えていてください。
私には能力があります。
遠くにいながら、あなたの呼吸を止めることができる。
あなたに触れずとも、その体を切り刻むことができる。
無事でいたいのなら、どうかこちらの指示に従ってください』



19 :名無し 2011/12/16(金) 17:15:56.96 ID:+9B/ba1D0
2通目。


『前田敦子さんへ

次の握手会を中止しなさい。
もし中止されない場合には、こちらは然るべき措置を取ります。
しかしなるべくならあなたを傷つけたくはない。
覚えていてください。
私には能力があります。それはとても恐ろしい力です。
念じるだけで、あなたをいのままに動かせる。
迫り来る電車の前へ飛び出すよう、あなたを操れるのです。
無事でいたいのなら、どうかこちらの指示に従ってください』



20 :名無し 2011/12/16(金) 17:16:36.58 ID:+9B/ba1D0
3通目。


『板野友美さんへ

次の握手会を中止しなさい。
もし中止されない場合には、こちらは然るべき措置を取ります。
しかしなるべくならあなたを傷つけたくはない。
覚えていてください。
私には能力があります。それはとても恐ろしい力です。
手を握っただけで、あなたを遠くへ飛ばすことができる。
次の瞬間には、あなたは誰もいない南極の地でひっそりと凍死するこでしょう。
無事でいたいのなら、どうかこちらの指示に従ってください』



21 :名無し 2011/12/16(金) 17:17:07.26 ID:+9B/ba1D0
秋元P「馬鹿馬鹿しいでしょう。何なんだ能力って。しかしこれでわかる通り、犯人は相当頭のおかしな人物であることは間違いない。だから何をしでかすかわからない。こちらとしても不安なんですよ」

康は忌々しげに、当麻の持つ脅迫状を見ながら言った。
しかし当麻は真顔で康を見つめると、静かに問いかけた。

当麻「本当にそうでしょうか?」

秋元P「君まさか、こんなふざけた内容を本気にしているのか?」

当麻「はい、私はこの犯人の言っていることを信じますよ。ここまで言い切るくらいですから、本当に犯人にはそういう能力が備わっているのだと思います」

突然真面目な口調になった当麻を、高橋は驚いて見つめた。

高橋「どういうことですか、当麻さん」

当麻は今度、高橋に視線を向けると、一気に説明した。



22 :名無し 2011/12/16(金) 17:18:22.22 ID:+9B/ba1D0
当麻「人間の脳は通常10パーセントほどしか使われてません。残り90パーセントがなぜ存在し、どんな能力が秘められているのかわかってないんです」

当麻「だからこそ、通常の人間の能力や常識では図り知れない特殊なスペックを持った人間が、この世界にはすでに存在していると私は思います」

秋元P「それは超能力者や霊能力者の類が本当に存在するということですか?そんな馬鹿な…」

当麻「はい。そんな馬鹿馬鹿しくてどんだけーな能力がある日突然備わってしまう人間が確かにいるんです。私は会ったことありますよ。身を持ってその恐ろしさを知りました。ね、瀬文さん?」

突然話を振られた瀬文だが、落ち着いた動作で頷いた。
見るからに硬派な体育会系といった瀬文が同意したので、高橋は当麻の言葉が本気であると悟った。
先ほどとは違う緊張感が、2人に間には感じられた。

秋元P「まぁそう思うならそれで、とにかく私はメンバーの安全が確保できれば何でもいい。どうかくれぐれもお願いしますよ」

康の言葉に、高橋は慌てて頭を下げた。

高橋「お願いします、皆さん」



23 :名無し 2011/12/16(金) 17:19:03.58 ID:+9B/ba1D0
野々村「そうと決まれば早速ね、当麻くんと瀬文くんでAKB48の皆さんを見張って…」

当麻「はい!」

野々村の言葉を遮って、当麻が挙手をする。

野々村「はいはい何だい当麻くん」

当麻「あのー、いっそのこと握手会を中止してしまうというのはどうでしょう?」

当麻は当たり前のようにそう指摘した。

当麻「犯人の要求を呑んでひとまず握手会を中止にしてしまえば、高橋さん達が狙われるようなことはなくなりますよね?それが一番手っ取り早くて安全なんじゃないですか?」

瀬文「馬鹿、握手会に一体どれだけのファンが来るかわかって言ってるのか!」

当麻が言い終わるか言い終わらないかのうちに、瀬文が彼女の頭を思いきり叩く。

当麻「痛ぁーい。瀬文さんがぶったー」

当麻は明らかに嘘泣きとわかる声を上げ、瀬文を抗議した。

当麻「そんなに大変なことなんですか?握手会って」



24 :名無し 2011/12/16(金) 17:19:40.98 ID:+9B/ba1D0
瀬文「握手会が中止になったらまた後日振り替えの握手会日程を調整しなければならない。忙しいメンバーのスケジュールをやりくりし、ファンががっかりしない対応を取るため、どれほどの人間が動くかわかるだろう」

野々村「お、瀬文くん詳しいねぇ」

当麻「さては瀬文さん隠れファンですね?まさかたかみなさん推しだったりしてー。ちなみに私はこじはるさん推しです」

当麻の言葉はあながち外れてはいなかったようで、照れ隠しなのか、瀬文はまたしても思い切り当麻の頭を引っぱたいた。
高橋の視線に気付くと、露骨に逸らして頬を赤らめる。
高橋はさっきから感じていた瀬文の視線の理由を、そこでようやく理解した。

野々村「僕はね、あのー、ともちんと呼ばれてる子が好きだな。若い頃の妻にそっくりで…」

当麻「係長は黙っていてください」

当麻に一蹴され、野々村は黙った。
気がついたようにスーツのポケットを探って指輪を取り出すと、左手の薬指に戻している。



25 :名無し 2011/12/16(金) 17:20:49.10 ID:+9B/ba1D0
秋元P「確かに握手会を中止にすれば安全は確保されるでしょう。しかし毎回脅迫状が届くたびに中止にしていたのでは、ファンは混乱する。妙な憶測を呼んでしまうかもしれない。そこから悪い噂が立つことも考えられる」

秋元P「どうか皆さんのお力で、メンバーが安全に活動できるようにしてほしいんです」

当麻「わかりました。警察は善良な市民の味方です。お任せください」

そう断言した当麻の右手には、いつの間にか割り箸が握られていた。

――本当にこれで安心できるのだろうか。

高橋は若干の不安を残しながらも、何かを探すように未詳を見渡した。



26 :名無し 2011/12/16(金) 17:21:18.98 ID:+9B/ba1D0
高橋達が未詳に相談に行っている頃、前田は自宅マンションのソファの上にいた。
彼女の隣には、同じグループのメンバーで親友でもある板野の姿があった。

板野「…でね、あっちゃん聞いている?」

前田「あ、ごめーん。聞いてるよ。ちょっと集中してただけ」

板野は呆れたように前田を見つめ、それから彼女の手元に視線を落とした。
集中していると言ったわりに、ジグソーパズルはほとんど進んでいない。
考えごとでもしていたのだろう。

――あたしがこんなことになったから、あっちゃんを悩ませているのかもしれない。

板野は罪悪感に襲われた。



27 :名無し 2011/12/16(金) 17:21:49.76 ID:+9B/ba1D0
前田「なんか眠くなっちゃった」

板野「あ、コーヒー淹れようか?キッチン借りるね」

板野はそう言って、テーブルに置かれたマグカップを持つと立ち上がった。
しかしすぐに立ちくらみのような感覚に襲われ、その場に座り込む。

前田「大丈夫?いいよー。コーヒーならあたしが淹れるから」

前田は板野を座らせると、キッチンへと向かった。
気配を察知した前田の愛犬達が、餌が貰えるのかと思い込み、彼女の足元に纏わりついていく。
愛犬達を引き連れながら、前田はキッチンへと姿を消した。



28 :名無し 2011/12/16(金) 17:22:18.96 ID:+9B/ba1D0
1人になった板野は、脅迫状について考えていた。

――たかみなは今頃、秋元さんと一緒に警察に相談に行っているはず…。

板野にとっての心配の種は握手会が中止になってしまうことだった。
ソロの仕事も増え、忙しくなった彼女だが、握手会をファンとの交流として大切に思う気持ちは昔も今も変わっていない。

――どうか警察の人が、力になってくれますように。

脅迫状の内容が内容なだけに、まともに対応してもられるかわからないと高橋は言っていた。
板野はそのことを思い出し、祈るような気持ちで天を仰いだ。
キッチンからはコーヒーのいい香りが漂ってくる。
板野は小さくため息をついた。



29 :名無し 2011/12/16(金) 17:22:44.93 ID:+9B/ba1D0
前田「おまたせー」

ほどなくしてマグカップをトレーに乗せた前田が戻って来た。
トレーにはコーヒーの他に、サラダとクッキーが乗せられている。

板野「あっちゃん、また食べるの?」

前田「えへへ、なんかお腹すいちゃって」

毎度のことながら、板野は前田の食欲には感服していた。
細い体で、前田は本当によく食べる。



30 :名無し 2011/12/16(金) 17:23:18.70 ID:+9B/ba1D0
前田「それよりともちん、またため息ついてたでしょー?」

板野「え?キッチンまで聞こえた?」

前田「聞こえたよー。心配しなくても大丈夫だって。たかみながうまくやってくれてるよ」

前田に励まされ、板野は大きく頷いた。

板野「そうだよね。警察の人が来てくれれば、何も心配することないよね」

前田「そうそう。ほらクッキー食べなよ。明日は握手会だよ?力つけておかないと」

板野「えー、クッキーで力つくわけないじゃん」

そう笑いながらも、板野はクッキーへと手を伸ばした。
前田はそんな板野を見守るような目つきでもって、見つめている。



31 :名無し 2011/12/16(金) 17:23:50.87 ID:+9B/ba1D0
翌日、高橋は緊張の面持ちで控え室へと入った。

前田「あ、たかみなおはよー」

すぐに気がついた前田が、飼い主を見つけた子犬ように駆け寄ってくる。

高橋「おー、おはよう」

高橋が挨拶を返すと、前田は高橋の耳元に唇を寄せ、小声になった。

前田「今日は警察の人、来てるんだよね?」

高橋が返事をしようとしたその時、背後からキャリーバッグを引く音が聞こえてきた。



32 :名無し 2011/12/16(金) 17:24:08.70 ID:30C4cMKe0
期待してるよー


33 :名無し 2011/12/16(金) 17:24:31.72 ID:+9B/ba1D0
当麻「おはようございます。あなたは確か…前田敦子さん!ですよね?ね?」

前田は当麻を見ると一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑顔を取り戻し頷いた。
それから当麻の後ろに立つ瀬文の姿を確認した。
瀬文はメンバーが集まる控え室に居心地の悪さを感じているのか、さながら女子高に勤める男性教諭のような気圧された表情で、しかし姿勢だけは崩れることなく堂々と立っている。

前田「警察の方ですね?今日はよろしくお願いします」

当麻「あー、わかりますか?一応ファンのふりして握手会を見張ることにしたんで、周囲に溶け込めるように考えたんですけど」

前田「だって握手会にスーツで来る人なんて滅多にいませんから」

当麻「ですよねー。ほらやっぱり私服のほうがいいって言ったじゃないですか瀬文さん」

当麻に抗議の眼差しを投げかけられ、瀬文の肩がぴくりと動いた。



34 :名無し 2011/12/16(金) 17:25:49.87 ID:+9B/ba1D0
瀬文「格好なんてどうでもいい。要は皆さんが安全に握手会を終えることができるかどうかだ」

前田は瀬文が握りしめている紙袋に目を奪われた。

――何が入っているのだろう。

スーツに紙袋という組み合わせが、彼女の目に不自然に映った。

当麻「それ何ですけど、現時点で脅迫状が届いているのは高橋さん前田さん板野さんの3人なんで、3人に集中して見張りをするんで問題ないですよね?」

当麻は物珍しそうに控え室を見渡しながら、そう言った。
気がつくと、先ほどまで賑やかだった控え室は、当麻と瀬文の登場により静まり返っていた。



36 :名無し 2011/12/16(金) 17:27:29.45 ID:+9B/ba1D0
瀬文「1つお聞きしますが、他のメンバーの方々は脅迫状についてご存知なんですか?」

瀬文は相変わらず高橋の目をまっすぐに見ることができないようで、視線を逸らしながらそう訊いた。

高橋「はい。一応みんなにも警戒が必要なんじゃないかと秋元さんと相談して、あたしからみんなに伝えました」

大島「あのー、本当に大丈夫ですよね?まさかあんな脅迫状に書かれてあったようなこと、起きるわけないですよね?」

大島は一歩前に進み出ると、大きな目を見開きながら、当麻に質問した。

大島「3人にもしものことがあったらと思うとあたし心配で…」

当麻「大丈夫です。3人のことも、皆さんのことも必ず守りますんで」

当麻は大島の目力に吸い込まれそうになりながら、そう答えた。
その時だった。
控え室の隅で、か細い声が響く。



37 :名無し 2011/12/16(金) 17:28:02.25 ID:+9B/ba1D0
渡辺「あのぉ…実は脅迫状はそれだけじゃないんです」

柏木に支えられた渡辺が、小刻みに肩を震わせている。

渡辺「今朝、わたしにも脅迫状が届いていたそうです」

当麻「…あなたは?」

渡辺「渡辺です。これがその脅迫状なんですけど…」

渡辺が差し出した便箋を受け取り、当麻はその文面に目を通した。
高橋も覗きこんで、脅迫状を読んでいる。

――どうして…どうしてまゆゆにまで脅迫状が…。

高橋は驚きの表情を浮かべた。



38 :名無し 2011/12/16(金) 17:28:33.22 ID:+9B/ba1D0
『渡辺麻友さんへ

今日の握手会を中止しなさい。
もし中止にしなかったら、私はあなたの命を奪うでしょう。
私にはとある力があります。
私は遠くにいながら、あなたを毒殺することができます。
もうおわかりでしょう?
握手会が終わった時、あなたのもうこの世にいません』



当麻「毒殺…ですか」

当麻の呟きに、メンバーが凍りつく。



39 :名無し 2011/12/16(金) 17:29:00.76 ID:+9B/ba1D0
高橋「毒殺ってどういうことですか?何でまゆゆが?」

高橋の声は上擦っていた。
みるみるうちにその目は涙で濡れはじめる。

瀬文「ただちに差し入れや弁当の類を処分しろ!早く!飲み物も全部だ!」

瀬文が周りにいたスタッフに怒鳴った。
スタッフ達は瀬文の迫力に驚きながらも、次々と控え室から飲食物の類を運び出そうとする。
メンバーの中からは悲鳴が上がった。

小嶋「えー、あたしもうお弁当食べちゃったよー」

小嶋はしかし事態の深刻さがまだ理解できていないらしく、メイクを直す手を休めることなくそう言った。



40 :名無し 2011/12/16(金) 17:29:40.65 ID:+9B/ba1D0
当麻「さすが小嶋さん、脅迫状ごときでは動じないなんてやはり天才の素質が備わっているんですね。いやー、ぶっちゃけ私、アインシュタインの次に小嶋さんを尊敬していますから。実物はやっぱりクソ可愛いっすね!」

当麻もまた突然の事態に驚く様子もなく、ひょうひょうと小嶋に話しかけた。
元来人見知りの小嶋は、曖昧に笑っただけで、当麻と話す気はないようだった。
そんな小嶋の態度に気を悪くすることもなく、むしろ当麻は興味深げに憧れの美女の姿を見つめている。

秋元「大丈夫なんですか、結構みんなごはん済ませちゃってるんですけど」

仲川「あたしまだお菓子しか食べてなかったよー」

口々に話し始めるメンバーを、高橋が貫禄ある仕草で宥めていく。

当麻「あくまでも犯人の狙いは渡辺さん。わざわざ名指しで脅迫状を送りつけてくるくらいですからね。他の皆さんにまでは危害を加える気はないと思いますよー」

高橋「でも誰がどのお弁当を食べるかまで犯人が予想できるわけないし、もし無差別に毒が入っていたのなら…」



41 :名無し 2011/12/16(金) 17:30:10.89 ID:+9B/ba1D0
当麻「大丈夫です。ほら瀬文さーん、余計なことするから皆さん怖がっちゃったじゃないですか」

瀬文「これは緊急事態だぞ」

当麻「犯人の狙いは渡辺さんです。しかし控え室に置かれた飲食物に毒を仕込んだのでは、確実に渡辺さんを狙うことは不可能。だったら犯人はもっと別の方法で渡辺さんを狙ってくるはずじゃないですか」

高橋「メンバーやスタッフがこんなにいる状態で、どうやってまゆゆにだけ毒を盛るっていうんですか?」

当麻「さあわかりませんけど、毒殺っていっても何も飲食物だけを疑う理由なんてないんですよ。毒っていえば例えば蜘蛛とか蠍とか蛇とかだってそうですよね?」

恐怖と不安に硬直する控え室の中で、当麻だけが悠然と構えている。
何か犯人逮捕に対する秘策でもあるのだろうか。
得体の知れぬ当麻の自信に、高橋は苛立ちを覚えていた。



42 :名無し 2011/12/16(金) 17:30:52.68 ID:+9B/ba1D0
高橋「メンバーやスタッフがこんなにいる状態で、どうやってまゆゆにだけ毒を盛るっていうんですか?」

当麻「さあわかりませんけど、毒殺っていっても何も飲食物だけを疑う理由なんてないんですよ。毒っていえば例えば蜘蛛とか蠍とか蛇とかだってそうですよね?」

恐怖と不安に硬直する控え室の中で、当麻だけが悠然と構えている。
何か犯人逮捕に対する秘策でもあるのだろうか。
得体の知れぬ当麻の自信に、高橋は苛立ちを覚えていた。

高橋「そっちのほうがより不可能じゃないですか。まゆゆを毒殺するために、犯人は蛇や蠍を持ち込むというんですか?」

当麻「いえ、これはあくまでも方法の可能性です。実際に犯人がどんな手を使ってくるか私にもわかりません。だけどそのためにこうして私達が来ているんじゃないですか」

当麻はそう言うと、バッグから惣菜のパックと割り箸を取り出し、食べ始めた。

当麻「まあ今からここでああだこうだ言ってても始まりません。犯人は必ず握手会に現れます。そこを私達は逮捕するだけです。今は静かにその時を待ちましょう」

落ち着いた様子で食事を始めた当麻を、瀬文は忌々しげに見つめている。
高橋はメンバーを落ち着かせたり、具合が悪くなっていないかと聞いて回ったりと、忙しく立ち働き始めた。



43 :名無し 2011/12/16(金) 17:31:25.33 ID:+9B/ba1D0
ほどなくして、握手会が開始された。
結局作戦を変更して、客のふりをして潜入するのではなく、握手会スタッフとして堂々と渡辺につくことにした当麻と瀬文は、始終辺りを警戒していた。
渡辺は脅迫状が届いていることなど感じさせぬ笑顔で、ファンと交流している。
まだ子供っぽさの残る少女の、プロ意識の高さに、瀬文は目を見張った。
ふと見れば、他のメンバーも不安だろうに、傍目には心から握手会を楽しんでいるように映る。

高橋「ありがとうございますー」

少し離れた所から、高橋の元気な声が聞こえてきた。
瀬文は先ほどの控え室での、彼女の様子を思い出す。
不安で泣き出すメンバー、震えるメンバーに1人1人声をかけ、じっくりと話を聞いていた高橋。
不思議なことに高橋に話しかけられたメンバーは皆、その後笑顔になり、元気を取り戻したように見えた。
以前SITの一員として部下を引っ張ってきた経験のある瀬文だが、高橋の持つ天性のリーダーシップと責任感の強さは、尊敬に値すると考えていた。
しかし、だからこそ今の状況を一番深刻に受け止め、傷ついているのは高橋だろう。
絶対に彼女を救ってあげたい。
瀬文はそう心に誓った。



44 :名無し 2011/12/16(金) 17:32:07.47 ID:+9B/ba1D0
前田「本当ですかー?ありがとうございますー」

渡辺と背中合わせに立つ位置には、前田がいた。
2通目の脅迫状を受け取ったのは彼女だ。
いくらスタッフに固められているとはいえ、きっとその時の握手会は恐怖でいっぱいだっただろう。
瀬文は前田の姿にも視線を走らせた。

今日の犯人の狙いは渡辺に間違いなさそうだが、念のため前田の周囲にも警戒しておいたほうが良さそうだと瀬文は判断した。

この寒い季節に、前田は防寒よりも見た目を重視した服装で握手会に望んでいる。
華やかに見えるアイドルという職業も、なかなか楽ではないらしい。
瀬文はいつの間にか、健気に頑張る彼女達の虜になっていった。



45 :名無し 2011/12/16(金) 17:32:44.34 ID:+9B/ba1D0
当麻「はいはい駄目駄目ー。次の人が控えてるんだから」

渡辺の横で、すっかり握手会スタッフになりきった当麻が、渡辺から無理やりファンを引き剥がそうとしている。
渡辺のレーンでは、態度の悪い女性スタッフがいると早くも噂になっていた。
笑顔を浮かべながらも、渡辺は時折困惑した表情で当麻を見ている。

その時、バランスを崩したのか、背後にいた前田が渡辺に倒れかかった。
渡辺はその場に座りこむような形で倒れしまう。
助け起こそうとして当麻が動くのと、何かが彼女達の目の前を横切るのとは、ほとんど同時であった。

渡辺「キャーーーー」

一瞬遅れて、渡辺の悲鳴が上がる。



47 :名無し 2011/12/16(金) 17:35:06.39 ID:LVvTpx420
当麻と瀬文ってどこかで聞いたと思ったら「SPEC」か
戸田と加瀬で脳内変換開始w



49 :名無し 2011/12/16(金) 17:38:47.50 ID:4efee3T2i
やっと追いついた
これは期待できるな
なかなか面白い



51 :名無し 2011/12/16(金) 17:40:26.90 ID:Ei/M5Jvc0
面白いな
ちゃんと完結させてくれよ



52 :名無し 2011/12/16(金) 17:40:40.39 ID:Ge/lEkWY0
今度映画でやるんだっけか


54 :名無し 2011/12/16(金) 17:42:55.34 ID:rABJgKRoi
テレテテ テレテテ テレテテ テレテテ I step ~


55 :名無し 2011/12/16(金) 17:44:06.89 ID:+9B/ba1D0
少し離れた場所で警戒を続けていた瀬文が急いで彼女のもとへと駆け寄った。
倒れた渡辺の足先数センチほどの所。そこに矢が刺さっていた。

瀬文「くっそぉぉぉぉぉぉ!!」

瀬文は周囲に素早く視線を走らせた。

どこから矢は放たれたのか。
突然の出来事に騒ぎ出すファンの群れに隠れ、犯人はすでに逃走を始めているかもしれない。

考えるよりも先に、瀬文は駆け出した。
しかしやはり犯人らしき姿を見つけることはできない。



56 :名無し 2011/12/16(金) 17:44:43.45 ID:+9B/ba1D0
瀬文が駆け出すのを見て、当麻は呆れていた。

当麻「あの体育会系馬鹿。脳みそまで筋肉で出来てるのかよ」

当麻は天井近くの窓に開けられた穴を確認する。

――あそこから矢が放たれたのだとしたら、犯人は最初から会場に入って来てはいない。

窓の先にはビルの屋上が見えた。
犯人はおそらくあの屋上から渡辺を狙って矢を放ったのだろう。
犯人は相当な弓矢の腕を持つ人物。
あるいはやはり特殊なスペックを持ち、その能力を使って矢を放ったのかもしれない。

前田「まゆゆ大丈夫?」

当麻が窓を睨んでいるうちに、倒れた渡辺を前田が助け起こした。
渡辺は恐怖で足がすくみ、1人では立っていられないような状態であった。
すぐにスタッフが駆けつけ、渡辺と前田を奥へ連れ去る。
当麻も後を追いかけた。

当然のことながら、その後の握手会は中止となり、他のメンバーも控え室へと戻らされることとなった。



57 :名無し 2011/12/16(金) 17:45:22.94 ID:+9B/ba1D0
控え室には重々しい空気が漂っていた。
その後の調べで、矢には即効性の毒が塗られていて、当たればまず命を落としていただろうということだった。

高橋はメンバーの恐怖を和らげようと、意識して明るい声を出す。

高橋「でもさ、犯人は確かに気になるけど、あたしはまゆゆが無事でいてくれてうれしいよ」

高橋の言葉に、メンバーの表情が少しだけ和らいだ。

篠田「本当そうだよね。何はともあれ、まゆゆに矢は当たらなかったわけだし」

柏木「私は麻友が無事なら、正直犯人なんてどうだっていいです。後は警察に任せておけばいいんですよね」

柏木は涙ぐみながら、渡辺を抱きしめた。
毒殺に怯え、食事を摂っていなかった渡辺だが、柏木からきんぴらごぼうを差し出されると、少しだけ食べることができた。
きんぴらごぼうは今朝、柏木の母が作って持たせたものである。
柏木の母の味に、緊張の糸が切れたのか、渡辺は泣き笑いを浮かべた。

渡辺「本当に怖かったよぉ。ありがとう、ゆきりん、あっちゃん」

そんな渡辺の姿を見て、ようやくメンバーの間に安堵の息が洩れた。



58 :名無し 2011/12/16(金) 17:45:50.08 ID:+9B/ba1D0
大島「そうそう!あっちゃんお手柄だったねー」

偶然とはいえ渡辺を助けた形となった前田は、メンバーから賞賛されていた。
もしあの時、前田が倒れかかっていなければ渡辺はまともに矢を受けいたことになる。

前田「たまたまコートを取ろうとして手を伸ばしたらこけちゃって。まゆゆを倒しちゃったんだよね。大丈夫だった?」

渡辺「うん、平気だよ。ありがとう」

前田は渡辺の言葉に、笑顔で頷いた。

高橋「あっちゃんは怪我とかなかった?」

前田「うん。大丈夫ー」



59 :名無し 2011/12/16(金) 17:46:31.48 ID:+9B/ba1D0
こうして徐々に控え室には和やかな空気が流れるようになった。
しかしそこへ、当麻が姿を現した。
メンバーのおしゃべりは一瞬にして止み、視線は当麻へと注がれる。

当麻「高橋さん、ちょっとお話いいですか?」

当麻は高橋を見て、手招きをした。
高橋は神妙な面持ちで控え室を出て行く。
その後ろ姿を、前田は心配そうに見つめていた。



60 :名無し 2011/12/16(金) 17:47:01.58 ID:+9B/ba1D0
当麻は高橋を会場の隅へと連れて行った。
さきほどまで握手会が行われていた会場。
すでにファンの姿はなく、がらんとした空間には寂しさだけが漂っている。

高橋「あの、何かわかったんですか?」

高橋は当麻を見つめる。
事件直後は姿が見えなかった瀬文が、矢が刺さっていた床に屈みこんで何かを調べていた。

高橋「あ、瀬文さんもいたんですね」

当麻「犯人逮捕しようと考えなしに駆け出して、結局収穫なしで戻って来たんですよ、この馬鹿は」

瀬文「隣にいながら渡辺さんを狙う矢の存在に気付かなかったおまえに言われたくない」

瀬文が抑揚のない声で言い返す。



61 :名無し 2011/12/16(金) 17:48:03.50 ID:+9B/ba1D0
当麻「でー、高橋さんをお呼びしたのは他でもない、ちょっと聞きたいことがあるんですよー」

当麻は呑気さの窺える間延びした声で言った。
この人には真剣味が感じられないなと、高橋は心内で批判する。

高橋「はい、何ですか?」

当麻「事件が起きたとき、あのビルの屋上に不審な人物が見えたりしませんでしたか?」

高橋「いえ、あたしはまゆゆから一番遠い、あっちの壁際のほうにいましたから、事件が起きたことさえ最初は気付きませんでした」

当麻「そうですか。メンバーの並び順や組み合わせは誰が決めているんですか?」

高橋「運営の方だと思います」

当麻「レーンの並び順をあなた方が知るのは、いつも当日会場に入ってからですかね?」

高橋「はい、控え室に入ると、自分がどこのレーンに行くか貼り出されてあるんです」

当麻「そうですかー」

当麻は何を気にしているのだろう。
高橋は当麻の考えがさっぱり読めなかった。



62 :名無し 2011/12/16(金) 17:48:46.51 ID:+9B/ba1D0
当麻「ところで、高橋さんの身近に、弓矢の経験がある人とか、異常に運動神経がいい人とかいませんか?」

高橋「は?どういうことですか…」

当麻「うーん、例えばあなた方のスケジュールに詳しいマネージャーさんやスタッフさん、もしくはー……メンバーとか?」

当麻は無邪気にそう言った。
高橋の顔に、明らかな嫌悪が浮かぶ。

高橋「まさかスタッフさんやメンバーの中に犯人がいると疑っているんですか?」

当麻の発言に、高橋は憤りを感じている。
自分達のために頑張ってくれているマネージャーやスタッフ、そして何よりここまで苦労を共にしてきたメンバーを疑われたのが心外といった様子だ。



63 :名無し 2011/12/16(金) 17:49:29.47 ID:+9B/ba1D0
当麻「例えばの話ですよ。やだなぁー、そんなに怖い顔しないでください」

当麻がにやにやと笑う。
高橋はそんな当麻を睨みつけた。
すぐに瀬文が割って入る。

瀬文「当麻!聞き方というものがあるだろ!」

しかし当麻は軽く舌打ちしただけで、すぐにまた高橋に向き直る。

当麻「だってさっきの事件、どう考えても外部の犯行じゃないんすよー。AKB48さんの身近な人物でないと絶対にさっきの犯行は不可能なんです」

高橋「どうしてですか?矢は会場の外…あのビルの屋上から放たれたんですよね?」

高橋が訊くと、当麻はなぜかうれしそうに頷いた。
そして待ってましたと言わんばかりに、一気に話し始める。



64 :名無し 2011/12/16(金) 17:52:12.15 ID:+9B/ba1D0
当麻「握手会のレーンの並び順は当日会場に来ないと、関係者以外は知ることができないんですよね?あのビルの屋上から渡辺さんを狙うには、事前にレーンの並び順がわかっていなければ実行不可能なんです」

当麻「もし渡辺さんがここではなく、もっと別の、奥のほうのレーンだったらあそこから弓矢で狙うことは出来ませんからねー。そうなった場合はきっとターゲットを変更していたんだと思います」

当麻「おそらく犯人が渡辺さんをターゲットに選んだ理由はレーンの並び順にあるんじゃないでしょうか。一番狙いやすい窓側のレーンの渡辺さんを、犯人は弓矢で毒殺することに決めました」

当麻「そして今朝、渡辺さん宛てに脅迫状が届いた。犯人は遅くとも今日の朝までにはレーンの並び順を知っていたことになります。だとしたら自然と犯人は絞り込めますよね?」

当麻「事前に並び順を知ることのできる人物、それは握手会のスタッフとメンバーの方だけです」

当麻の説明に、高橋は言葉を失った。
まさか本当にそんなことがあり得るのだろうか。
いつも親切なスタッフ、優しいメンバー達、あの中に、密かにメンバーに対して殺意を抱いている人物が紛れこんでいるというのか。
高橋は当麻の言葉が信じられなかった。信じたくなかった。

そんな高橋の気持ちを見透かしてか、当麻は尚も続ける。



65 :名無し 2011/12/16(金) 17:52:51.14 ID:+9B/ba1D0
当麻「すぐには信じられませんよねこんとなこと。だけど状況がそれを物語ってるんですよ。教えてください高橋さん、あなたの身近に弓矢の腕を持つ人物はいませんか?」

当麻の問いかけに、高橋はしばらくの間無言を貫いた。
しかし観念したのか、口を開く。

高橋「番組で特技を披露する機会とかあるんで、メンバーについてはよく知っているはずだと思います。あたしが知る限り、メンバーの中には弓矢が得意の子はいません。スタッフさんについてはよく知りませんけど」

当麻「そうですか、わかりました。ありがとうございます」

当麻は意外とあっさり納得し、弓矢が放たれた窓を見上げた。

高橋「お力になれなくてすみません」

当麻「いいっすよ。どうせそんなことだろうと思いました」

当麻の言葉に、高橋は首を傾げる。
最初からそう思っていたのなら、なぜわざわざ自分は呼び出されたのだろう。



66 :名無し 2011/12/16(金) 17:54:16.43 ID:+9B/ba1D0
当麻「あの窓、見た目は小さいですが結構厚いんですよ。あの窓をつき破ったら、渡辺さんに届くまでに矢の勢いは失われてしまうと思います」

当麻「それなのに矢は勢いを失うどころか、床に突き刺さって穴まで空けている。こんなことどんなに弓矢の腕のある人物でも物理的に不可能だと思いませんか?」

高橋はそう言われて、床に目を落とした。
矢の痕は、数センチほどの深さがあるように見える。
確かに言われてみれば妙だ。

高橋「どういうことですか、これ…」

当麻「おそらく犯人は弓矢を撃ったわけじゃないと私は思います」

高橋「撃って…ない…?じゃあどうやって犯人は矢を…」

当麻は自身の見解を話すのが楽しくてたまらないといった様子で、子供のように跳ね回りながら言った。

当麻「やだなー、撃ってないなら答えは1つに決まってるじゃないですかー。投げたんですよぉー」



67 :名無し 2011/12/16(金) 17:55:07.98 ID:hwzBtLLa0
高まるぅ~


68 :名無し 2011/12/16(金) 17:56:49.89 ID:+9B/ba1D0
高橋「そんな…あのビルからですか?そっちのほうが不可能ですよ」

当麻「それが不可能じゃないんですねー。どうしてだかわかりますか?」

高橋「いえ、わかりません」

当麻「そうですかー。それじゃあ教えてあげる。犯人は特殊なスペックを持っているからです!あ、当たり前すぎて笑えますよね」

当麻「たぶん、異常な運動能力を持つスペック…つまりー、常識では考えられないくらいちょー運動神経がいい人。そんな犯人してみれば、あのビルから窓を突き破って渡辺さんに矢を投げることなんて、紙くずをゴミ箱の放りなげるくらい簡単なことです」

当麻「あ、そうそう、あの毒が塗られていた矢は、衝撃に耐えられるようかなりの重さに改良されていました。それが何よりの証拠です。瀬文さんが馬鹿力で引っ張らないと床から抜けないくらいでしたから」

当麻の言葉に、瀬文が無言で頷く。

高橋「でも仮にそんな能力を持つ人がいたとして、矢を投げることはできても、まゆゆに当たるよう狙いをつけるのは難しいんじゃないですか?ほら、ビルは結構離れた所に建ってますし」



69 :名無し 2011/12/16(金) 17:58:06.44 ID:+9B/ba1D0
当麻「本当に優れた運動能力を持つスポーツ選手なんかは、動体視力も優れているんです」

高橋「そうなんですか…でもそんなことすぐには信じられないですよ」

高橋はそう言って、視線を泳がせた。

当麻「ま、実際に自分の目で見ない限りは信じられませんよね。いいです。ただ高橋さんにはこれから、周りの人物に注意を払ってもらいたくてお話したんです。少しでもおかしな動きをする人物を見かけたら、すぐに私達に教えてください」

当麻はそこで突然真剣な顔になった。
高橋はそんな当麻の迫力に気圧されながらも、こくこくと頷く。

高橋「は、はい…わかりました…」



70 :名無し 2011/12/16(金) 17:58:39.62 ID:+9B/ba1D0
高橋が当麻の説明を受けている間、控え室は徐々にいつもの活気を取り戻していた。

峯岸「この後どうする?今日はもう握手会中止になっちゃったし、みんな暇でしょ?ごはんでも食べて帰ろうよ」

宮澤「お、いいねー」

前田「何食べるー?」

峯岸の提案に、宮澤と前田は無邪気な様子を見せる。
しかし大島は、浮かない顔をしていた。

大島「でもさ、今日のところはおとなしくしておいたほうが良くない?こんな事件が起きた直後だし、犯人だって捕まってないんだから」

大島はそう言って、悲しげに眉を下げた。
峯岸も気がついて、口をつぐむ。



71 :名無し 2011/12/16(金) 17:59:02.38 ID:rABJgKRoi
最初普通の刑事ドラマかと思って見てたらいきなり犯人が異常な運動能力でボール投げてきたから何事かと思ったなww


72 :名無し 2011/12/16(金) 17:59:15.99 ID:+9B/ba1D0
小嶋「あ、ねぇたかみなはどこいったのー?」

小嶋がきょろきょろと視線を動かした。

篠田「たかみなならさっき刑事さんに呼ばれてどこか行ったけど。にゃんにゃん気付かなかったの?」

篠田は早々と帰り支度を始めながら、小嶋のほうを振り返った。

小嶋「えー?そうなの?なんでぇー?」

前田「たぶん最初に警察に相談したのがたかみなだから、何か説明を受けてるんじゃないかな」

前田は携帯を操作する手を休め、小嶋を見た。



73 :名無し 2011/12/16(金) 18:00:39.60 ID:+9B/ba1D0
小嶋「そっかぁー。明日早いからたかみなに朝電話してって頼もうと思ったのに」

篠田「あ、じゃああたし電話してあげようか?何時?」

大島「えー、麻里子疲れてるってさっき言ってなかった?にゃんにゃん、あたしが電話してあげるよ!」

小嶋「えー、どうしようかなー」

自分で言っておきながら、小嶋はすでに興味を失ったようで、適当に返事をしながらその辺に置かれた紙を引き寄せ、落書きをはじめてしまった。
前田はそのやりとりをぼおっと見守っていたが、すぐに気がついてまた携帯の画面に目を落とした。
その直後、ぴくりと肩を震わせ、周囲を見渡す。

峯岸「あっちゃん?どうしたの?」

前田「あ、ねぇ誰か今、携帯鳴ってるよ?」



74 :名無し 2011/12/16(金) 18:01:19.71 ID:+9B/ba1D0
前田に言われて、大島はちらりと自分の携帯を見た。
篠田も大島に続き、携帯を確認する。
2人はそれから顔を見合わせ、不思議そうに首を傾げた。

大島「えー、何も聞こえないよ」

前田「違うよー。佐江ちゃんの携帯じゃない?」

宮澤が慌てて鞄の底を探る。

宮澤「あ、ほんとだ。お母さんから電話だ」

宮澤は電話に出ると、二言三言話し、片方の耳を塞ぎながら控え室を出て行った。
しばらくして戻って来た宮澤の表情は、先ほどとはうって変わり、影をさしている。

大島「どうかした?」

大島が宮澤の顔を覗き込んだ。

宮澤「さっきの事件、もうニュースとして報道されてるみたい。心配だから終わったらすぐ帰って来いってお母さんが…」



75 :名無し 2011/12/16(金) 18:02:05.14 ID:+9B/ba1D0
その夜、高橋は自宅で1人考え込んでいた。

当麻は自分達の身近に犯人がいると睨んでいる。
そしてその犯人とは特殊なスペックの持ち主。

高橋はもう一度、握手会の様子を思い返してみた。

――やっぱり犯人はメンバーの誰かなのかな。

大混雑の握手会で、スタッフが自分の仕事を離れてあのビルまで行き、矢を投げることは時間的に不可能。それはメンバーも一緒だ。
当麻が言おうとしていたのは、もしかしたら今日の握手会に来ていたメンバーやスタッフの中に、レーンの並び順を犯人に伝え、犯行を手引きした人物がいるのでは、ということだったんじゃないだろうか。
いずれにしても用心しておいたほうがよさそうだ。
なるべくならメンバーを疑いたくはないけれど。



76 :名無し 2011/12/16(金) 18:02:48.87 ID:+9B/ba1D0
高橋はそう考えに至り、大きくため息をついた。
机に置かれた紅茶は、とうに冷めてしまっている。

――犯人がメンバーを狙う目的は何なの?

何度考えても、犯行の理由はわからなかった。
今朝、脅迫状が届いて高橋は心底驚いたのだ。

――誰が何の目的であんな脅迫状を送って来たのだろう。

メンバーの前では気丈に振る舞っていたものの、高橋は1人になると、得体の知れぬ犯人に怯えていた。

――もう何も起きないといいんだけどな…。



77 :名無し 2011/12/16(金) 18:03:14.36 ID:+9B/ba1D0
翌日、瀬文が出勤すると、すでに当麻はソファに座り、野々村と一緒に食い入るようにテレビ画面を見ていた。

瀬文「どうしたんですか?」

瀬文が声をかけると、野々村が振り向いた。

野々村「ああ瀬文くん、おはよう」

瀬文「おはようございます」

野々村の脇から、瀬文もテレビを覗きこむ。
映っていたのはAKBのライブ映像だった。

瀬文「何してるんですか?」



78 :名無し 2011/12/16(金) 18:03:48.53 ID:+9B/ba1D0
野々村「いやね、昨日のうちに資料になりそうな映像を片っ端から当麻くんが集めてくれたんだよ。いやー、これはいいね、ともちんて子も可愛いけど、僕は麻里子様も好きだね」

野々村は嬉しそうに目じりを下げている。
その姿は完全に仕事を忘れていた。

当麻「あ、瀬文さんも見ますか?」

当麻が呑気な顔で振り返る。

瀬文「これのどこが資料映像なんだ?」

昨日、高橋に対してかなりきつい質問を繰り返していた当麻が、瀬文は許せなかった。

――こいつ、本気でメンバーを疑っているのか?

瀬文は当麻を睨みつけた。
案の定、当麻は意に介さずといった具合に、朝からぺらぺらとよく喋った。



79 :名無し 2011/12/16(金) 18:05:19.44 ID:+9B/ba1D0
当麻「昨日はああ言いましたけど、やっぱり犯人はメンバーの中の誰かしか考えられないんですよー。だってー、もしスタッフの誰かが犯人だとしたら、わざわざビルから渡辺さんを狙わなくても、もっと簡単に毒殺することができるじゃないですか」

当麻「そもそも毒殺じゃなくても、渡辺さんが1人になった隙を狙って、首をひねればいい話です。犯人には素晴らしい運動能力というスペックがあるんですから」

当麻「それなのに犯人はビルの屋上から渡辺さんに毒を塗った矢を投げるという回りくどい方法を取った。どうしてだと思います?」

瀬文「変態の考えることなど、俺にわかるわけないだろ」

当麻「犯人はどうしても、あの握手会会場に入ることができなかったんです。だから遠くから渡辺さんを狙うしかなかった。もし会場に入ったら、すぐにファンに気付かれてしまいますからね」

瀬文「どういう意味だ?」



80 :名無し 2011/12/16(金) 18:06:35.01 ID:+9B/ba1D0
当麻「まだわかりませんか?犯人は昨日の握手会に参加していなかったメンバーの誰かなんです。メンバーなら、会場に入って渡辺さんを狙う前に、すぐにファンの人に気付かれてしまいます」

当麻「で、この資料映像。昨日の握手会に参加していなかったメンバーの顔を把握しておこうと思いまして。何しろ人数が多いですからねー。瀬文さんにもメンバーの顔と名前、覚えてもらいますよ?」

当麻に言われ、瀬文は不服そうに腰を下ろし、画面を見た。
正直なところ、テレビでよく見かけるメンバー以外、瀬文にはみんな同じ顔に見えてしまう。

昨日の握手会に参加していたのは、高橋、前田、大島、渡辺、柏木、篠田、小嶋、板野、宮澤、峯岸、秋元、倉持、高城、指原、北原、大家、宮崎、平嶋、佐藤すみれの19人だった。
瀬文は午前中いっぱいを使って、メンバー1人1人の顔を覚えていく。
当麻は昨日のうちに覚えてしまったようだが、なぜだか瀬文に付き合って資料映像を見続けていた。



81 :名無し 2011/12/16(金) 18:07:21.32 ID:+9B/ba1D0
午後になると、当麻と瀬文は彼女達の番組収録の現場へと向かった。
昨日の握手会にいなかったメンバーにも会っておくべきだという当麻の考えに、瀬文が付き合わされた形である。

峯岸「あ、当麻さん!どうしたんですか?」

2人が現場に着くと、すぐに峯岸が人懐こい笑顔で話しかけて来た。

当麻「昨日あんな事件があったばかりですから、心配で見に来たんですよー」

当麻はさらりと嘘をついた。
それから峯岸の足元を見下ろす。

当麻「めちゃくちゃ可愛いっすね、この犬」

当麻の目は、峯岸の連れている小型犬に釘付けになった。そんな当麻を、瀬文は意外そうに見つめる。

――犬に反応するとは、こいつも一応女なんだな…。

瀬文は心内で、失礼極まりないことを呟いていた。



82 :名無し 2011/12/16(金) 18:08:17.93 ID:+9B/ba1D0
峯岸「ジョセフっていうんですー」

峯岸は話題が愛犬に向かうと、うれしそうに目を細めた。

峯岸「今日のロケは愛犬と一緒なんです。メンバーのわんちゃんもほらあっちに…」

峯岸が指し示した方向には、やはり小型犬を連れた彼女達の姿があった。
事件のことはすでに伝わっているはずだが、愛犬と一緒ということもあり、メンバーはややリラックスした表情を浮かべている。

仁藤「こんにちは」

最初に挨拶をして来たのは仁藤だった。
当麻も頭を下げる。

平嶋「あ、昨日の…」

1人だけ中型犬を連れた平嶋が当麻と瀬文に気付き、目を丸くした。

平嶋「何かあったんですか…?」

昨日の握手会に参加していた平嶋は、すぐに状況を察して視線を下げた。



83 :名無し 2011/12/16(金) 18:09:09.44 ID:+9B/ba1D0
当麻「やだなーそんなに怖がらないでくださいよー」

当麻は馴れ馴れしく平嶋の肩を叩いた。

当麻「ちょっと見学に来ただけです。それに心配なんで」

平嶋「そうですか…よろしくお願いします」

藤江「何、どうしたの?」

当麻と瀬文とは初対面になる藤江は、不思議そうに首を傾げるも、丁寧な身のこなしで会釈をした。
その時、藤江の足元にいた犬が、当麻に吠え付いた。

当麻「おぉっ」

藤江「ごめんなさい、ほらマックス!おとなしくしないと…」

藤江は犬の名前を呼び、慌てて抱き上げた。
それが今日の衣装らしい、ピンクのツナギのポケットから餌を取り出すと、マックスに与えている。
餌をもらうとマックスは途端におとなしくなった。



84 :名無し 2011/12/16(金) 18:09:17.44 ID:Gzrtfuyv0
まだ読んでないけど
>>1には期待してる



85 :名無し 2011/12/16(金) 18:09:41.73 ID:+9B/ba1D0
峯岸「脅迫状のことで調べてくれてる当麻さんと瀬文さんだよ」

峯岸は他のメンバーに2人を紹介した。
昨日はいなかったメンバー、仁藤、藤江、岩佐、近野は、納得した顔で頷く。

近野「あ、よろしくお願いしまーす」

近野が元気よく挨拶したところで、番組のスタッフらしき男性がメンバーに近づいてきた。
どうやら撮影が始まるらしい。
当麻と瀬文は一時退却し、離れたところから彼女達の様子を見守ることにした。



86 :名無し 2011/12/16(金) 18:10:18.09 ID:EVlz2JJl0
この>>1とはなんとなく推しの趣味が合いそうだ


87 :名無し 2011/12/16(金) 18:10:34.53 ID:+9B/ba1D0
当麻「いやー、皆さんさすがプロっすねー。あんな事件があったのに、カメラが回った途端にすごい笑顔…いえ、私達の姿を見た時から笑顔を作っていましたね」

当麻は感心した様子で、撮影を見ている。

瀬文「当たり前だろう。彼女達はアイドルなんだ」

撮影は順調に進んでいるようで、番組の趣旨に則って彼女達は思い思いに自分の愛犬をアピールしていく。
どうやら最終的にオーディションで残った1頭に、愛犬雑誌の表紙を飾る権利が与えられるという内容らしい。
当麻は楽しげに、メンバーの愛犬達の様子を見つめている。

瀬文「面白いのか?」

ふと疑問に思い、瀬文は当麻に問いかけた。



89 :名無し 2011/12/16(金) 18:13:48.96 ID:+9B/ba1D0
当麻「面白いですよ。だってー、犬って可愛いじゃないですか。ほら瀬文さんも見てくださいよー。仁藤さんの愛犬なんてかなり美人で品が良くて、まるで私みたいじゃないですかー?」

瀬文「……」

メンバーの名前を言われてもまだ覚えきっていない瀬文は、それが誰のどの犬なのかわからなかった。
わかっていたとしても、肯定はしていなかっただろう。
当麻ほど品のない女も珍しいと、瀬文は常日頃思っている。

瀬文「俺は断然、あの柴犬だな」

瀬文は平嶋の愛犬、ハチをいたく気に入り、少しだけ頬を緩めた。
その姿を見た当麻が、にやりと笑って瀬文をからかう。



90 :名無し 2011/12/16(金) 18:15:34.44 ID:+9B/ba1D0
区切りのいいところで休憩に入った彼女達は、愛犬達と遊びながら談笑を始めた。

ジョセフとじゃれる峯岸。
ハチに振り回される平嶋。
そして所構わず吠え続けるマックスに手を焼く藤江。
マックスは撮影中も他の犬に吠え付いていた。
そんな中、利口そうな顔で飼い主の膝の上に座っているのが、当麻も気に入った仁藤の愛犬、ナナだ。
当麻は密かに、ナナが優勝するだろうと睨んでいた。

さらに撮影は進み、いよいよ愛犬のオーディションとなる。
メンバーは次々と愛犬に芸を披露させていった。

当麻「次マックスくんですね、本番で吠えないといいですけど」

すっかり番組に夢中になってしまった当麻が、まるで自分のことのように緊張した面持ちで、藤江の愛犬、マックスを見守る。
結局、当麻の予想どおりナナの優勝が決まり、撮影は終了した。



91 :名無し 2011/12/16(金) 18:17:33.17 ID:JpFWu/4Y0
>>1は私が犯人…?の人?
乙です



92 :名無し 2011/12/16(金) 18:17:44.36 ID:+9B/ba1D0
峯岸「当麻さん、瀬文さんも最後までお付き合いいただいてありがとうございました。実は昨日のことでちょっとだけ不安だったんで、お2人が来てくれて良かったです」

仕事を終えた峯岸は、安心したのか本音をこぼした。
隣で平嶋も頷いている。

当麻「あのぉー、瀬文さんが平嶋さんの愛犬を気に入ってしまったみたいなんですよー。ちょっと触らせてあげてもいいですか?」

当麻は図々しくも平嶋にお願いする。
直後、瀬文に頭を叩かれた。

平嶋「あ、いいですよ、どうぞ」

平嶋はしかし、笑顔で快諾した。
瀬文はおそるおそるハチの頭を撫でる。
ハチは好奇心に満ちた瞳で、瀬文を見上げた。



93 :名無し 2011/12/16(金) 18:18:41.41 ID:+9B/ba1D0
当麻「何だったらその辺散歩させてもらったらどうですか?」

平嶋「あ、でもハチ、興奮すると結構引っ張る力が強くて…」

当麻「大丈夫ですよ瀬文さんなら」

平嶋は心配そうに、ハチのリードを瀬文に手渡した。

当麻「いいないいなー、瀬文さん」

当麻は自分の図々しさに気付くことなく、無邪気に飛び回る。
しかし当麻の動きに驚いたのか、ハチは駆け出してしまった。
突然のことに、慣れていない瀬文はハチに引っ張られ、そのまま数メートルほど引きずられてしまう。
平嶋は慌ててハチを追いかけ、静止させた。

当麻「うわぁー、瀬文さん大丈夫ですかー?」

当麻が半笑いで瀬文を助け起こそうとするも、瀬文は自力で立ち上がり、バツの悪い表情を浮かべた。



94 :名無し 2011/12/16(金) 18:19:50.13 ID:+9B/ba1D0
平嶋「ごめんなさい瀬文さん、怪我ないですか?」

平嶋はハチを叱りながら、瀬文に何度も頭を下げた。
瀬文は平静を装った顔で、彼女に答える。

瀬文「いえ、自分は訓練でこのようなことには慣れておりますので」

その間に当麻はあちこちへと動きまわり、各メンバーの愛犬にちょっかいを出し始めた。

当麻「本番は吠えなくて良かったですね、マックスくん」

前半は他の犬やスタッフの動きに興奮し、吠えてばかりいた藤江の愛犬は、しかしこの頃にはすっかりおとなしくなっていた。

藤江「はい、お陰様で」

藤江は笑顔で愛犬をあやしている。

藤江「でもおやつあげすぎてマックスおなかぱんぱんになっちゃったんですよー」

明るい藤江は、当麻の異様な容姿にも驚くことなく、すぐに打ち解けてしまっていた。



95 :名無し 2011/12/16(金) 18:20:27.98 ID:+9B/ba1D0
当麻「マックスくんと藤江さん、めちゃくちゃそっくりっすね」

当麻も藤江と話すのが楽しいらしく、会話の隙を見ては藤江に他のメンバーについて探りを入れた。
藤江は聞かれるままに、当麻にとって情報となる話題を返していく。

瀬文「当麻、次へ行くぞ」

瀬文が戻って来た頃には、当麻はある程度メンバーの関係性について掴むことができた。

当麻「それでは私達は次の現場へ向かいますので」

当麻と瀬文はメンバーに挨拶をすると、その場を後にした。



96 :名無し 2011/12/16(金) 18:22:27.00 ID:+9B/ba1D0
翌日、未詳にて当麻が資料映像を貪るようにして見ていると、高橋と前田が姿を現した。

高橋「おはようございます」

高橋の登場に、瀬文は密かに姿勢を正した。

当麻「あれ?どうしたんすか」

当麻はモニターの電源を落としながら、2人に体を向けた。
高橋と前田は顔を見合わせると、何かを確認し合うように頷いた。
高橋が口を開く。

高橋「あの、実はまた脅迫状が届いたんです」

瀬文の眉がぴくりと動く。
野々村も身を乗り出し、目を見開いた。



97 :名無し 2011/12/16(金) 18:24:17.79 ID:+9B/ba1D0
野々村「だけど、犯人の希望通り握手会は中止になったはずでは…」

前田「そうなんですけど、なんか今までのとは感じが違うんです…」

高橋「これがその脅迫状なんですけど…」

高橋に手渡された脅迫状を一読した当麻は、歓喜の声を上げた。

当麻「キターーー!」

辺りに響き渡る声で、当麻が叫ぶ。
すかさず瀬文が彼女の頭を叩いた。

瀬文「うるさい!一体何が来たんだ」

当麻「痛ってぇな叩くんじゃねーよ」

当麻は抗議の目を瀬文に向けながら、脅迫状を差し出す。

当麻「読みますか?これどう考えても脅迫状というより予告状として取れるんですよ。かなりレアなケースじゃないですか?」

当麻「ネット上で殺害予告が書かれるなんてことはよくありますけど、これは犯人の生原稿ですよ!今時こんなことする人いますかね?」

野々村「予告状というと、怪人二十面相みたいな犯人だねぇ」

野々村はなぜかこの場に似合わぬしみじみとした口調で言った。
瀬文は野々村を無視して、脅迫状に目を落とす。



98 :名無し 2011/12/16(金) 18:25:26.73 ID:+9B/ba1D0
『あれほど言ったのに、あなた方は握手会を開催しましたね?
私はあなた方を許しません。
前回は失敗しましたが、次は確実にあなた方を狙います。
もう一度言います。私には力がある。
どうかそのことをお忘れなく』



瀬文「殺害…予告?」

瀬文は愕然として言った。

瀬文「まさか本当に特殊能力で人を殺害する気なのか…」

前田は不安げに身を縮めながら、瀬文を見た。

前田「今回は名指しじゃないんです。だからもしかしたらAKBの全員が狙いなんじゃないかと思って…」

瀬文「……」

当麻「そして今回は犯人の要求が書かれていない…」



99 :名無し 2011/12/16(金) 18:26:36.86 ID:+9B/ba1D0
高橋「どうしてなんでしょう?確かに握手会を強行したのは犯人の意に背く行為でした。でも、結局途中で握手会は中止になったんだし、今後再開する予定もない…。それなのになぜ犯人はまだあたし達のことを狙うんですか?」

高橋が切羽詰った様子で、当麻に尋ねる。

当麻「おそらく犯人の目的が変わったんでしょう。始めに脅迫状を書いた犯人は、ただあなた方を怖がらせ、それにより握手会が中止になればいいと考えていた。しかし今度の犯人は握手会にかこつけて、あなた方を殺害することが目的になっていると思われます」

高橋「あの、今度の犯人てどういうことですか?」

前田「始めに脅迫状を書いた犯人て…」

当麻「始めに送られてきた高橋さん前田さん板野さん宛ての脅迫状と、次の送られてきた渡辺さん宛ての脅迫状とでは、内容に変化があると気付きませんでした?」

高橋「内容に…変化…」

高橋は考え込むようにして、当麻の言葉を反芻した。



100 :名無し 2011/12/16(金) 18:28:30.89 ID:+9B/ba1D0
当麻「知りたい?ねぇ知りたい?」

高橋と前田が首を傾げていると、当麻は突然はしゃぐように飛び跳ねた。

瀬文「もったいつけるな!いいから教えろ」

瀬文に一喝され、当麻はぐいっと高橋達のほうへ身を乗り出す。

当麻「最初の3通の脅迫状には、あなた方を傷つけたくはない、だから握手会を中止してくれという犯人の希望が書かれています。具体的に自分がどんな能力を持っているか教えておきながら、はっきりとあなた方を殺害するとは言ってないんです」

当麻「しかし渡辺さん宛ての脅迫状には、しっかりと殺害する意思と、その方法まで書いています。何がここまで犯人の考えを変化させたんでしょう?」

高橋「……」

高橋は唇を噛んで、当麻を見つめる。
その姿はまるで、当麻を睨んでいるようにも見えた。
前田が不安げに高橋に身を寄せる。



101 :名無し 2011/12/16(金) 18:29:11.06 ID:DFrg+LmS0
specのパロ?
まだ読んでないけど面白そうだな



102 :名無し 2011/12/16(金) 18:31:31.76 ID:+9B/ba1D0
当麻「答えは簡単です。犯人は2人いる。最初の3通を送ってきた犯人と、渡辺さん宛て、そして今回の予告状を送ってきた犯人。だけど2人の犯人の目的はまったく違う」

当麻「このことから考えると、どうやらこの2人の犯人は共犯関係にあるのではなく、別々に動いているという可能性です。おそらく2人目は便乗犯でしょう。そして恐ろしいことに、この犯人の目的は、あなた方を殺害すること…」

当麻がそこまで言うと、前田は恐怖に頬を引きつらせた。
高橋もまた恐怖で足が震えていたが、必死でそれを悟られないよう耐えていた。

高橋「あたし達は、これからどうしたらいいんですか…?」

当麻「犯人は次のターゲットを明かしていない。メンバーの方全員に説明して、注意を払っていただく必要があります。今後はあなた方全員のスケジュールを私達に教えてください。なるべくあなた方の動きに合わせて、私達も行動します」

高橋「今日だったらあたしとあっちゃんはこれから打ち合わせがあるんです」

当麻「同行します」

高橋「あ、でもそれはたぶん大丈夫です。まだ極秘の仕事なんで、限られた人しかこのことは知りませんから。それより心配なのは、今日だったらこれから何人かのメンバーがDVDの特典映像の撮影があって…」

瀬文「撮影?」



103 :名無し 2011/12/16(金) 18:32:49.58 ID:+9B/ba1D0
高橋「はい、スタジオ内だけならいいんですけど、メンバーの中には屋外での撮影もある子がいて…できれば当麻さん達行ってもらえますか?」

当麻「わかりました」

高橋「お願いします」

高橋は深々と頭を下げた。
隣で前田も軽く会釈をする。

高橋「じゃああたし達は行きます。もう時間なんで…」

瀬文「現場まで送ります」

瀬文の申し出に、高橋は困ったような表情を浮かべる。

高橋「でも…」

瀬文「お2人を仕事場までお送りしたら、すぐに残りの方達の所へ向かいますので。ご安心ください」

結局瀬文に押し切られる形で、高橋と前田は打ち合わせ場所近くまで送ってもらうことにした。
その間、前田は口数も少なく、何かをじっと考えているようで、当麻の相手は主に高橋が行っていた。



104 :名無し 2011/12/16(金) 18:34:01.61 ID:+9B/ba1D0
高橋と前田を無事送り届け、当麻達が教えれた場所へと向かうと、彼女達は既に衣装に着替え、リラックスした様子でスタッフから説明を受けていた。
おそらく今日は見知ったスタッフが多いのだろう。
当麻は、高橋が自分達をここへ来させたがった理由を理解した。

渡辺の事件の後、犯人はメンバーかスタッフの中にいると、当麻は高橋に話した。
高橋としては、メンバーの中に犯人がいるとは信じがたい。
そこで犯人はスタッフの中の誰かだと踏んで、見知ったスタッフの多いこの現場へ、当麻達を向かわせたのだ。
万が一、メンバーに危険が迫った場合、当麻達がすぐ対処できるように…。

――高橋さんという人は……。

当麻はすでに犯人はメンバーの誰かだと睨んでいる。
運のいいことに、集まっているメンバーは皆、握手会には参加していなかった面々だ。

――彼女達の中に、特殊なスペックを持った人間が潜んでいたとしたら…。

当麻はメンバーに視線を走らせた。
少し気の強そうな顔をした少女が、運動着姿で携帯を操作している。



105 :名無し 2011/12/16(金) 18:34:51.41 ID:+9B/ba1D0
当麻「どうも、高橋さんから少しは皆さんにお話伝わってますよね?今日は撮影を見させていただきます」

当麻はさっそくその少女に声をかけた。
大きな瞳が印象的なその顔は――菊地だ。
当麻はすぐに資料映像に映っていた彼女の姿を思い出した。

菊地「あ、よろしくお願いしますー」

菊地が当麻に挨拶すると、スタッフが近づいてきた。

スタッフ「じゃあ菊地、そろそろ運動場出て。撮影始まるから」

菊地が元気良く返事をすると、どこからか声が上がった。

小森「あ、あやりん頑張ってねー」

当麻はその少女の顔を確認する。
小森美果だ。
なぜかバレリーナのような恰好をしている。



106 :名無し 2011/12/16(金) 18:35:43.51 ID:+9B/ba1D0
菊地「小森まだなの?」

小森「あー、なんかカメラの調子が悪いみたいー」

菊地「じゃああたし、先終わったら見に来るねー」

小森と軽く話し、菊地はスタジオの出口に向かった。
当麻と瀬文もその後に続く。

当麻「今日はどんな撮影なんですか?」

菊地「メンバーがそれぞれ自分の特技を披露するんです」

当麻「確か菊地さんは走るが得意なんですよね?ね?運動場に行くってことはー、これからその俊足を披露すると?」

菊地「え?何で知ってるんですか?」

当麻「AKBさんをお守りすると決まってから、皆さんのことは色々調べましたから。菊地さんについてももちろんリサーチ済です。藤江れいなさん…菊地さんとは同じチームKになるんですよね?昨日彼女から聞きました」

菊地「あ、そうなんですか…」



107 :名無し 2011/12/16(金) 18:36:16.43 ID:tXQwtEDR0
なんか凄いペースやね


108 :名無し 2011/12/16(金) 18:37:00.99 ID:+9B/ba1D0
運動場に着くと、菊地は軽くストレッチをした。
どうやら100メートル走を行うようだ。
スタッフもてきぱきと準備を始めている。

少しすると、撮影開始の声がかかった。
菊地がカメラの前に立つ。
最初に自己紹介と意気込みなどを話し、続いてスタート位置に着く。
菊地が走り出した時、当麻は思わず息を呑んだ。
隣で、瀬文も驚愕の表情を浮かべている。

瀬文「これは…彼女のスペック…」

当麻「いえ、まだ常識の範囲内です。しかし意識して力をセーブしていることも考えられますが」

当麻はそう言って、ゴールしたばかりの彼女の姿を見つめた。



109 :名無し 2011/12/16(金) 18:37:36.76 ID:+9B/ba1D0
菊地は納得がいかないのか、スタッフと話し、もう一度スタート位置に戻って来た。
撮り直しをするようだ。

当麻「熱心ですね、菊地さん…」

当麻は菊地の姿から目を離さない。
2回目の走りは、目に見せてわかるほど1回目とはスピードが上がっていた。

当麻「彼女は一昨日の握手会には参加していませんでした。そしてあれほどの運動能力の持ち主…」

当麻が呟く。

――渡辺さんを狙った犯人のスペックは、間違いなく人並み外れた運動能力…。

菊地は今度こそ納得がいったのか、締めの言葉をカメラに向かって話している。
当麻はそんな彼女の姿を、しばらくの間見つめ続けていた。



110 :名無し 2011/12/16(金) 18:39:27.95 ID:sMtMfjd8O
永尾が主人公


111 :名無し 2011/12/16(金) 18:54:38.26 ID:ehmPH0Mq0
島田が主人公


112 :名無し 2011/12/16(金) 19:21:30.16 ID:aU9xFSaI0
期待age


113 :名無し 2011/12/16(金) 20:07:34.92 ID:ScwWJ6V/O
菊地の撮影が終わったところで、当麻達はまたスタジオに戻って来た。
スタジオの中では、ぽっちゃりとした少女がジャグリングを披露している。

増田「アハハ、みゃおすごーい」

当麻はその少女――宮崎の顔を確認する。
しかしすぐに興味を失って目を逸らした。

瀬文「見てなくていいのか?」

当麻「あれがスペックの力だとは到底思えません」

当麻の目にとまったのは、小森の姿だった。
メンバー達が宮崎のジャグリングを見守る中、彼女だけ1人、熱心にパソコンを覗き込んでいる。

当麻は小森の背後からそっと近づき、彼女が見つめるモニターを確認した。
バレエの舞台映像のようだ。
小森は当麻の気配に気付く様子もなく、時折モニターに映るバレリーナの動きを真似してみている。




114 :名無し 2011/12/16(金) 20:10:48.84 ID:Um/idOKjO
おぉ、スペックssか
期待あげ



115 :名無し 2011/12/16(金) 20:12:10.06 ID:ScwWJ6V/O
スタッフ「次、小森ー!あれ?どこ?」

小森「あ、はいー」

スタッフの呼びかけに気付き、小森が返事をする。
そのまま優雅な身のこなしでカメラの前に立った。
着ている衣装といい、どうやら彼女はこれからバレエを披露するらしい。


当麻「バレエの衣装って可愛いですよねー。憧れるぅ~」

当麻がうっとりとした調子で言うのを、瀬文は鼻で笑った。

菊地同様、小森もまたカメラの前で自己紹介と意気込みを話していく。
それから音楽がかかり、小森はゆったりと動き出した。

小森のバレエは見事だった。
そちらの方面に疎い当麻でさえ、彼女の踊りが高いレベルであることが見てとれる。
大技はもちろんのこと、些細な手の動き、足の動きが美しいのだ。
他のメンバーも瞬き1つせず、小森の動きに魅せられていた。

数分の踊りを見せ終わると、これまた優雅な仕草で小森はお辞儀をして撮影を終えた。
スタッフの間から、拍手が起こる。



116 :名無し 2011/12/16(金) 20:23:23.92 ID:ScwWJ6V/O
小森は自分でも何が起こったかわからないといった表情で、目をしばたたせていた。

菊地「すごいよ小森ー」

菊地が興奮した様子で、小森に抱きつく。

小森「すごい久しぶりだったから不安だったんだけど、間違えずに踊れたー」

小森はそこで安堵したのか、初めて笑顔を覗かせた。

当麻「いやー、見てましたよ小森さん。マジでどんだけーって感じでした」

当麻が拍手をしながら、小森に近づく。

当麻「バレエは昔から習っていたんですよね?」

小森「え?あ、はいそうですー。でももう辞めて3年くらい経つんでうまくできるかわかんなかったんですけど」

小森は当麻が誰なのかわかっていないようだったが、おっとりした口調でそう説明した。
その様子からは、先ほどの優雅な舞を踊っていた同一人物とは信じがたいものがある。



117 :名無し 2011/12/16(金) 20:24:55.19 ID:9vLjhPVEi
スペックホルダーって殺す以外に抑えつける方法ないよね
あんまり覚えてないけど大半が銃弾の跳ね返しで死んだようなw



118 :名無し 2011/12/16(金) 22:17:54.99 ID:aU9xFSaI0
捕手


119 :名無し 2011/12/16(金) 22:53:46.60 ID:GwLr1aUT0
やっと追いついた
今度はSPECとコラボか楽しみ



120 :名無し 2011/12/17(土) 00:14:08.75 ID:XECZQF0vO
その後、撮影は最後まで何事もなく進み、瀬文はほっと胸を撫でおろした。
しかし当麻はいささか不服そうである。

当麻「結局何も起きなかったじゃないですかー。瀬文さん」

瀬文「馬鹿言え。何も起きないほうがいいんだ」

当麻「だってー、実際に事件が起こって、この目で犯人の持つスペックの力を確認しないと対処のしようがないですよ」

瀬文「事件が起こってから対処法を考えていたのでは遅い。忘れるな、俺達の仕事はスペックを持つ人物を探すことではない。彼女達の安全を守ることが第一優先だ」

当麻「そうですけどぉ、やっぱり会いたいじゃないですか。私達がまだ見たことのない、未知の力を秘めたスペックに」

当麻はそう言って、目を輝かせた。



121 :名無し 2011/12/17(土) 00:19:14.26 ID:XECZQF0vO
その夜、高橋は自宅に帰るとすぐに、一本の電話を受けた。

高橋「え?欠席?大丈夫なの?」

電話の相手は板野である。
翌日はCMの撮影を控えていたが、板野は体調が優れず、仕事をキャンセルすることになったのだ。


板野「大丈夫、今から明日撮影に来れそうなメンバーを探すって言ってたし…」

高橋「そうじゃなくて、ともちんは大丈夫なの?気分悪い?」

板野「平気、ちょっと手に力が入らないけど、少し休めばきっと…」

高橋「そう…」




122 :名無し 2011/12/17(土) 00:21:52.17 ID:XECZQF0vO
高橋の最近の懸念事項は、脅迫状の他に、メンバーの体調管理にあった。
ここのところ、体調を崩すメンバーが続出している。
忙しすぎるスケジュールに、無理が生じてきているのだ。
どうにかして、無理なくメンバーが仕事をこなせるよう、調整は出来ないものだろうか。
高橋は常々、そのことで頭を悩ませていた。
長年の努力が報われ、今や国民的アイドルグループと言われるまでになった自分達。
だからこそ、今が頑張り時なのだということは充分承知している。

――だけど、みんなかなり疲労が溜まってきている。このままいけばいつかは…。

高橋は体調不良を理由に、グループの卒業を言い出すメンバーが出てくるのではないかと心配していた。


板野「ごめんねたかみな…心配かけて…」

黙り込んだ高橋を気遣って、板野はそう言った。



123 :名無し 2011/12/17(土) 00:23:57.40 ID:XECZQF0vO
板野「あたしは大丈夫だから。明日、頑張ってね」

高橋は慌てて、いつもの明るい声を絞り出す。

高橋「ごめんごめん、ちょっと猫が暴れ出したからさー…、ともち●こそ心配しないで、明日はゆっくり休みなね」

板野「うん。ありがとう…」

電話を終えると、高橋は大きくため息をついた。板野にいらぬ心配をかけ、気を遣わせてしまった自分が情けなかった。

高橋「あっちゃんに電話しようかな…」

高橋がそう呟いたとき、携帯の着信音が鳴った。



124 :名無し 2011/12/17(土) 00:36:30.18 ID:XECZQF0vO
高橋「もしもし…」

掛けてきたのは前田だった。

高橋「ちょうど今あっちゃんに電話しようと思ってたところだったんだよー」

前田「あ、そうなのー?じゃあタイミング良かったねー」

高橋「ともちんのこと、聞いた?」

前田「うん、体調が悪いって…」

前田の声が暗くなる。

前田「どうしようたかみな、もう時間がないよ…」

高橋「わかってる。あたし達で早くなんとかしないとね…」

高橋は声に深刻さを滲ませる。
電話口で、前田が泣いているのがわかった。
前田の声を聞いて、高橋の胸は切なくなる…。



125 :名無し 2011/12/17(土) 00:43:07.99 ID:XECZQF0vO
翌日、CMの撮影現場には、当麻と野々村が現れた。

高橋「あの、今日は瀬文さんは…」

野々村「あぁ瀬文くんはね、ドラマの撮影現場のほうに行ってもらってるよ」

当麻「高橋さんがいるんで、本当は瀬文さんこっちの現場に来たかったんだと思うんですけどね」

当麻はそう言って、何がおかしいのか1人で笑っていた。

高橋「すみません、メンバーはああやって振舞ってますけど、内心すごく不安だと思うんです。どうかよろしくお願いします」

スタジオの中央で談笑するメンバー達を見やりながら、高橋が言った。



126 :名無し 2011/12/17(土) 00:45:30.27 ID:XECZQF0vO
野々村「それで今日はともちんて子はいないのかな?」

野々村がきょろきょろと首を動かす。

高橋「あ、今日ともちんはお休みなんです。昨日から体調を崩してて…」

野々村はがっくりと肩を落とした。

野々村「あぁそれはいけないねぇ。早く良くなるように祈っておきましょう」

そう言って本当に祈るような仕草を見せる。
当麻はそんな野々村を無視して、高橋に話しかけた。



127 :名無し 2011/12/17(土) 00:47:30.90 ID:XECZQF0vO
当麻「そういえば、調べたら皆さん結構体調崩してお休みされてますよね。さすが人気アイドルは多忙ですねー。そういう時こそスタミナのつく物食べなきゃ駄目ですよ。何だったら今度、おすすめの餃子屋さん紹介しましょうか?」

高橋「あぁそうなんですか…是非…。もしかしてそのお店にはここへ来る前にも…?」

高橋は当麻のにんにく臭い息が気になり、尋ねずにはいられなかった。
直後、失礼だったかなと反省する。

当麻「あ、わかりますぅー?だいたい仕事前と仕事終わりに行くことが多いんですー」

しかし当麻は気にすることなく、むしろ嬉しそうにそう語った。



128 :名無し 2011/12/17(土) 00:52:23.99 ID:XECZQF0vO
一方瀬文は、ドラマの撮影があるという彼女達を見張るため、小学校の校舎に来ていた。
スタッフの手により、なぜか教室内は荒んだ雰囲気に作り変えられていく。

――どういうドラマなんだこれは……。

みるみるうちに、一昔前の不良映画のようになった教室の隅で、瀬文は撮影の様子を見学している。

瀬文から少し離れた所には、七輪が置かれていた。

――教室に、なぜ七輪?

瀬文の疑問はますます深まる。
その時、元気な挨拶と同時にジャージと制服を着崩した五人のメンバーが入って来た。
全員、握手会やその後の撮影で見たことのある顔だ。



129 :名無し 2011/12/17(土) 00:55:07.98 ID:XECZQF0vO
高城「おはようございまーす」

瀬文に気付いた高城が挨拶をしてきた。
瀬文は咄嗟に敬礼で返してしまう。
中の1人、昨日バレエを披露していた少女が、瀬文につられて敬礼しようとした。
それを隣にいた少女が慌てて制止している。

五人はあらかじめ位置が決まっているのだろう、七輪を囲むようにして座ると、スタッフから説明を受け始めた。
瀬文はその様子を凝視する。
ちょうどスタッフの1人が近づいて来たので、訊いてみることにした。

瀬文「お忙しいところ失礼します。これは何のドラマでありますか?」

瀬文のよく通る声に、スタッフはぎょっとしながらも答える。

スタッフ「あ、学園ドラマですよ」



130 :名無し 2011/12/17(土) 00:57:23.97 ID:XECZQF0vO
瀬文「なぜ教室に七輪があるのでありますか?」

スタッフ「あれはまぁ、彼女達のシンボルというか、必須アイテムみたいなものですね」

瀬文「なぜあのような物を使う必要がありますか?」

スタッフ「え、あぁ完成したドラマを見てもらえばわかりますよ。じゃあ僕、やることあるんで…」

スタッフは面倒くさそうに瀬文をあしらうと、どこかへ行ってしまった。
別の場所で行っている撮影が、時間を押しているというスタッフの話し声が聞こえてくる。
きっとさっきのスタッフもそちらの現場に向かったのだろう。

取り残された瀬文は、なんとなく彼女達の会話に耳を傾けた。
どうやらまだ本番は始まらないらしい。



131 :名無し 2011/12/17(土) 00:57:50.65 ID:W3kGwykn0
がんばれー
支援



132 :名無し 2011/12/17(土) 00:59:53.39 ID:XECZQF0vO
小森「すごいんですよわたしー、踊ってみたら結構体が覚えてて」

指原「小森あれ、例のひらひらのやつ着たの?」

高城「マスタード?」

北原「違うよレオタードでしょ」

仁藤「いやいや、本番だったらチュチュでしょ」

彼女達は昨日の撮影のことを話しているらしかった。
脅迫状のことは知っているだろうに、その落ち着きっぷりに瀬文は感心する。

指原「でもまさかさー、マジすか3の製作とかもうないと思ってたよね」

北原「そしてまさかもう1度チームホルモンやるなんてね」

小森「あー、今気がつきました。わたしのストップウォッチ新しくなってる」

高城「ほんとだー、なんかかっこよくなってるね」



133 :名無し 2011/12/17(土) 01:03:04.20 ID:XECZQF0vO
仁藤「ねぇねぇ撮影まだ始まらないのかなー」

指原「あ、玲奈ちゃんの撮影が長引いてるみたいだよ」

北原「ゲキカラの撮影だとスタッフさん妙に力入るよね。うちらチームホルモンの時とは大違い…」

小森「あ、わたしちょっと撮影見てきます」

指原「じゃあ指原も行くー。玲奈ちゃん見たい!」

仁藤「えー、大丈夫なの?撮影の邪魔にならない?」

高城「静かにしていれば大丈夫だよー」

彼女達が動き出したので、瀬文もついて行くことにした。



134 :名無し 2011/12/17(土) 01:07:02.46 ID:Fd0C5wVZ0
これは面白い


135 :名無し 2011/12/17(土) 01:11:43.68 ID:XECZQF0vO
校舎の2階に上がったところの突き当たりで、撮影は行われていた。
なぜだか壁には血糊が飛び散っている。
そこへ線の細い少女が激突していく。
しかし少女は痛がる芝居を見せるどころか、すぐに立ち上がり不気味な笑みを浮かべていた。

瀬文「お忙しいところ失礼します」

高城「あ、忙しくないですー」

瀬文「あそこで血にまみれている方も、AKB48さんのメンバーでありますか?」

高城「あ、はいー。しいちゃんですか?握手会で会いましたよね?」

瀬文「いえ、あの方ではなく、もう1人の女性であります」

高城「玲奈ちゃん?玲奈ちゃんはAKBじゃなくてSKEですよー」

瀬文「SKEとは何でありますか?」

高城「AKBの姉妹グループです」

瀬文「では、AKBとはまったく別物でありますか?」

高城「一緒に仕事したり別々に仕事したり、色々です」



136 :名無し 2011/12/17(土) 01:15:34.72 ID:XECZQF0vO
高城の説明に、瀬文は混乱していく。
しかし玲奈ちゃんと呼ばれている彼女の動きには、目を見張るものがあった。

――なぜ学園ドラマで、こんな血まみれの乱闘シーンがあるのだろう…。

瀬文は疑問に思いながらも、玲奈のアクションに釘付けになった。
素早い動きと、時にエキセントリックとも思われる立ち回り。
一体どれだけの訓練を積んだのだろうと感心する。

指原「わー、しいちゃん頑張れー」

指原が小声で応援する横で、瀬文はいよいよアクションシーンのクライマックスと思しき現場を見つめていた。



137 :名無し 2011/12/17(土) 01:18:18.59 ID:8lew74j40
おもしろい。


138 :名無し 2011/12/17(土) 01:19:18.48 ID:XECZQF0vO
監督「はい、カットー」

しかしクライマックス直前で、監督の声がかかる。

監督「小森さーん、熱心に見るのはいいけど、カメラに入って来ちゃってるよー」

小森「あ、ごめんなさーい」

小森が謝ると、スタッフの間からは笑いが洩れた。
どうやら内容はともかく、なかなか和やかな雰囲気の現場らしい。

指原「小森前出すぎだよー。こっちおいで」

指原に言われ、小森が小走りで戻ってくる。
瀬文は照れ笑いを浮かべる彼女の姿を一瞥すると、再び演技を開始した玲奈に視線を送った。



139 :名無し 2011/12/17(土) 01:24:32.15 ID:XECZQF0vO
夕方になり、当麻と瀬文は合流して、チーム4のレッスン場へと向かった。
まだ顔を合わせたことのない彼女達に会うためだった。

島田「こんにちはー」

最初にレッスン場に入って来たのは、見るからに体育会系といった様子の少女であった。
その後から、ぞろぞろとメンバー達が姿を現す。
これまでに会ってきたメンバーとは違い、レッスン場に入って来た彼女達はまだあどけなさの残る顔立ちをしていた。
レッスン着に化粧っ気のないその顔は、普通の高校生と何ら変わりないように見える。
しかしいざレッスンが始まると、彼女達の顔つきは一変した。
真剣そのものといった様子で、ダンス講師の細かな注文にも真摯に応えていく。
休憩に入ると、当麻は講師に話を聞いてみることにした。



140 :名無し 2011/12/17(土) 01:27:35.52 ID:XECZQF0vO
当麻「彼女達はいつもこの時間からレッスンを?」

講師「はい。昼間はみんな学校がありますからね。学校が終わったらここへ来てレッスンを受けて、家に帰れば疲れた体で自主練の日々ですよ」

当麻「アイドルの世界も厳しいんですねー」

講師「彼女達はよく耐えてると思いますよ。やはり自らアイドルを目指して入って来た子達ですし、人数も多いですから、ライバル意識も強くて努力家な子が多いです」

講師は誇らしげにそう言いきった。
当麻は休憩をする彼女達の様子に視線を走らせる。



141 :名無し 2011/12/17(土) 01:30:55.37 ID:XECZQF0vO
確かに講師の言葉通り、1人鏡に向かって確認をする者、互いにダンスを教え合う者などの姿が目についた。

その中に1人、不満そうな顔で視線を落とす者がいる。
生き生きとした表情で夢に向かって頑張る彼女達の中で、その存在は明らかに浮いていた。

瀬文「どうした?」

彼女の姿を凝視する当麻に気付き、瀬文が話しかける。
その時だった。

島崎「キャーー」

声のしたほうを振り向くと、先ほどまでレッスン場の隅で1人ステップの確認をしていたはずの島崎が、床に倒れていた。
瀬文が島崎に駆け寄ろうとして、何かにぶつかり弾き飛ばされる。
当麻はその様子を呆然と見つめていた。

阿部「痛っ…!」



142 :名無し 2011/12/17(土) 04:40:43.22 ID:nDSmK6oi0
続きが楽しみ…


143 :名無し 2011/12/17(土) 07:17:25.27 ID:Fd0C5wVZ0
朝起きの保守
続き気になる



144 :名無し 2011/12/17(土) 07:41:38.20 ID:XECZQF0vO
続いて反対側の壁にいた阿部が足を押さえて屈みこんだ。
苦痛に顔を歪めている。

――何が…起きてるの…?

当麻はスタジオを見渡した。
あちこちで悲鳴が上がり、次々とメンバーが倒れていく。
ふいに、当麻の目の前を、何かが横切る気配がした。
一陣の風が巻き起こる。

――まさか、スペック…!!

何者かがこのスタジオの中を動いている。
しかし当麻にはその者の動きを見ることができない。

瀬文「ふざけんじゃねぇぞこの野郎!!」

立ち上がった瀬文が、スタジオ内に視線を走らせる。
しかしやはりその者の動きが確認できないようで、闇雲に動いては、巻き起こる風に当たり弾き飛ばされていく。

市川「……っつ…!!」

そして当麻は確かに目にした。
彼女達の中でも人一倍小柄な市川が風に当たり、宙を舞う姿を。



145 :名無し 2011/12/17(土) 07:45:19.28 ID:XECZQF0vO
市川は体を回転させながらふっ飛び、壁にぶち当たると気を失った。
人間1人を飛ばすほどの力…これほどの運動能力があれば握手会で渡辺に向かって矢を投げることもできただろう。

もう何度も弾き飛ばされている瀬文が、よろよろと立ち上がる。
いつの間にか、彼は拳銃を手にしていた。

瀬文「止まれ…止まらないと撃つぞ」

姿の見えない犯人に向かって警告する。

当麻「瀬文さん駄目…!」

瀬文「おわぁぁっ」

当麻の制止は遅く、すでに瀬文の手からは拳銃が消えている。
盗られたのだ。
そして瀬文はまたしても弾き飛ばされ、床の上を転がった。

瀬文「くっそぉぉ、折れたじゃねぇかこの野郎…」

瀬文は肩の辺りを押さえ、左腕を垂らした体勢でなんとか立ち上がった。
その時、当麻のすぐ横で、凄まじい音が響いた。



146 :名無し 2011/12/17(土) 07:49:16.72 ID:XECZQF0vO
当麻「あなたは…」

当麻の横には、1人の少女が倒れていた。
気を失っているようだ。
当麻はそっと、少女に近づく。
少女の手には瀬文の拳銃が握られていた。
当麻は無言で、彼女の手から拳銃を取り上げる。

当麻「人並みはずれた運動能力…しかしどんなに優れた能力を持っていても、筋肉の限界は訪れます。彼女は自分の限界を知らなかったんでしょう」

永尾「どうして…」

軽傷で済んだらしい永尾が、当麻のもとへ駆け寄ってくる。
倒れた少女の顔を見ると、驚愕の表情で呟いた。

永尾「らんらん…」

山内は髪を振り乱し、汗ばんだ顔で床に横たわっている。
瀬文も足を引きずりながらやって来た。

瀬文「こいつがやったのか…どうやって…?」



147 :名無し 2011/12/17(土) 07:54:02.05 ID:XECZQF0vO
当麻「おそらく自身のスペックを使って、全速力で駆け抜けたんでしょう。さながら走っている車にぶつかられたようなもの。しかし車ではなく彼女は生身の人間です。自身もその衝撃に耐えられず…」

当麻「見てください。彼女あちこちの骨が折れていますよ。自らを犠牲にしてまで…決死の覚悟だったんでしょう」

当麻が静かに言った。
瀬文は片腕で、山内の体を担ぎ上げる。
彼女の体は驚くほどに軽い。
こんな体で、メンバーを弾き飛ばしていたというのか。

永尾「あの、らんらんはどうなるんですか?」

瀬文「これから病院に連れて行く。事情はその後だ」

永尾「らんらんがあんなに早く動けるわけないです。きっと何かの間違いですよね?」

自身も傷つけられているというのに、永尾は懇願するように瀬文に訴えかけてくる。
その瞳は涙で潤んでいた。



148 :名無し 2011/12/17(土) 08:03:35.69 ID:XECZQF0vO
当麻「どうやらあなたが一番軽傷のようですね。ひどいのは市川さんでしょうか。すぐに救急車を呼びます。手伝ってください、永尾さん」

当麻は永尾の言葉を遮るようにして言った。

永尾「でもらんらんは…」

永尾はまだ山内の行方を気にする。

瀬文「大丈夫だ。彼女にはまず、怪我を治してもらう」

永尾「でもその後に警察に連れて行くんですよね?らんらんどうなっちゃうんですか?」

永尾は尚も食い下がった。

当麻「ごちゃごちゃうるせーな!見てみろ、彼女の他にも怪我人が倒れてるんだぞ!おまえはメンバーを助けたくねぇのか!」

当麻が一喝する。
永尾はびくりと肩を震わせた。
その瞬間、ついに耐え切れなくなったのか、彼女の目から涙が一筋流れた。
永尾は唇を噛み、必死にそれ以上泣くのを抑えようとする。
そして決心したように、大きく頷いた。
倒れているメンバーを助け起こしにかかる。
当麻はその姿を確認すると、すぐに救急車を手配した。
満身創痍の瀬文が、しかし確かな足取りで、山内を抱え、スタジオから出て行く。



149 :名無し 2011/12/17(土) 08:06:25.75 ID:XECZQF0vO
数時間後、すべての処置が終わった山内は、呆然と天井を見つめていた。

自分はどうしてここに寝かされているのだろう。
全身が痛い。
体を動かすことができない。

ドアの開かれる音がして、誰かの足音が近づいてくる。
山内は視線だけをそちらの方向に動かした。

――この人は…スタジオにいた刑事さん…?

山内「あの…」

声を発すると、全身の骨が痛んだ。

当麻「気がつきました?驚いたでしょう」

当麻が山内の顔を見下ろす。



150 :名無し 2011/12/17(土) 08:11:02.91 ID:XECZQF0vO
山内「どうして?あたし…」

当麻「あなたはメンバーの皆さんに怪我を負わせ、さらにその時の衝撃で自身も骨折し、ここへ運ばれて来たんです」

山内は当麻の言葉が信じられなかった。

山内「あたしが?みんなに怪我を…?」

山内の頭は混乱する。
自分はレッスンスタジオにいたはずだ。
そして気がついたらここに寝かされていた。
スタジオで何が起きたというのだ。
記憶を辿ろうとしても、靄がかかったようにうまく思い出すことができない。

山内「そんな…嘘ですよね?」

当麻「残念ながら本当です。あなたは自身のスペックを使い、メンバーを傷つけたんです」

山内「スペック?どういうことですか?」

当麻「あなたは普通の人と比べて高い運動能力を持っている。ですよね?」

山内「どうしてそれを…」



151 :名無し 2011/12/17(土) 08:12:14.91 ID:1sEIkSLgO
支援。


152 :名無し 2011/12/17(土) 08:14:18.88 ID:XECZQF0vO
当麻「私達はあなたが凄まじい速さで駆け抜けるのをこの目で確認しました」

山内「確かにあたしは昔から運動神経のいい方でした。だけど両親はあたしの力に気付き、人前では危険だからセーブしなさいと言ってきました。だからあたしはこれまで決して自分の能力を人に見せたことはなかったんです」

当麻「それなのにあなたは突如自分のスペックを公開してみせた。どうしてですか?」

山内「わかりません…そんなあたし…みんなを傷つける気もなくて…。でも、その時の記憶がないんです。言い訳じゃなくて本当に、何も覚えてないんです。教えてください。どうしてこんなことになったんですか?」

当麻「何も覚えていない…」

当麻が何かを考えるように呟く。

山内「あたしにも何がなんだか…、休憩をしていたら突然頭がボーッとして、気がついたらここに寝かされていたんです。もしかしてあたし、無意識のうちにみんなを傷つけていたということですか?」

当麻「山内さん…」



153 :名無し 2011/12/17(土) 08:19:02.25 ID:XECZQF0vO
山内は現実から逃げるように、まるでそうすれば悪い夢から覚めると信じているかのように、ぎゅっと目を瞑った。
当麻はその様子から、彼女は嘘をついているわけではなさそうだと判断した。

当麻「山内さん、ここには私とあなた以外、誰もいません。だから正直に話してください。あなたは今日のレッスンで一緒だったメンバーの中に恨みや憎しみを抱いている人物がいますか?」

山内「そんな…。みんな同じチームの大事な仲間です。恨んでいる人も嫌いな人もいません」

当麻「人間は無意識の時こそ、本音に近い行動をしている生き物です。あなたは誰も憎んでいない。だとすれば、あなたが無意識にメンバーを襲ったとは考えにくい」

山内「どういうことですか?」

当麻「おそらく、あなたは何者かに操られていた…あるいは洗脳されていたか…。一種の催眠状態にあったのではないかと考えられます」



154 :名無し 2011/12/17(土) 08:22:23.37 ID:XECZQF0vO
山内「催眠…?」

山内はどうもピンとこないらしく、眉間に皺を寄せた。
当麻が頷く。

当麻「最近、あなたの身におかしなことが起こったり、誰かに何か言われたりしたことはありませんでしたか?」

山内「最近ですか…」

山内は何か思い出そうとして、遠い目をした。
最近…自分は何をしていたのだろうか、誰と会ったのだろうか。
そう考えたとき、山内はここ数日の自分の記憶がひどく曖昧なことに気がついた。
思い出そうと強く考えれば考えるほど、激しい頭痛に襲われる。
何だかもう何日もボーッと過ごしていたような気がして、直後、背すじに冷たいものが走った。

山内「思い出せない…。どうして?あたし今まで何をしていたんだろう。何も…思い出せないよ」



155 :名無し 2011/12/17(土) 08:29:45.87 ID:XECZQF0vO
記憶がない…それがこれほど恐怖を感じさせるとは…。
山内は初めて理解した。
レッスンで嫌なことがあって、早く忘れたいと願うことは今まで何度もあったが、実際に記憶がなくなってみると、まるで体の一部を失くしたみたいに心細く、頼りない。
人間は、いいことも悪いことも全部ひっくるめて、記憶の積み重ねで成り立っているのだ。
もう何があっても、自分は決して忘れたいとは願わないだろう。
山内は悟った。
そして突如、誰かのシルエットが浮かぶ。

――この人は、誰…?

山内に残されたわずかな記憶が呼び起こされる。
記憶の中の人物は、逆光で顔を確認することができない。
顔のわからないその人が、何か言っている。

『これで終わりじゃないんだよ』

山内はそこではっとして、目を見開いた。

当麻「何か思い出せたんですか?」

当麻が詰め寄る。

山内「顔はよく覚えてないけど、誰かがあたしに言ったんです。これで終わりじゃないんだよって…」

山内の告白を聞き、当麻の顔色が変わる。

――終わりじゃない…まさかまだ事件は続くということなのか…。



156 :名無し 2011/12/17(土) 10:15:35.36 ID:Rs4AywNi0
面白い
完結させてくれ



157 :名無し 2011/12/17(土) 12:17:28.75 ID:l/VKMDRs0
SPEC大好きだった~
続き楽しみ



158 :名無し 2011/12/17(土) 13:44:19.20 ID:XECZQF0vO
翌日、当麻はバラエティの収録があるという高橋のもとを訪れた。
高橋に会うということで、もちろん瀬文も一緒である。
風船を膨らませたり、低周波装置をテストしたりと、当麻達の周りではスタッフが忙しく立ち働いていた。
2人は邪魔にならないよう、スタジオの隅で待機している。

高橋「おはようございます」

スタジオに飛び込んできた高橋は、私服姿で、まだほとんどメイクもしていない。
元気よく挨拶はしたものの、そこにいつもの笑顔はなかった。
瀬文はそんな高橋を見て、心を痛める。
彼女が気丈に振舞うほど、無理をしているのではないかと心配になってしまう。

当麻「山内さんの事件のことは、建物の設計ミスにより突風が発生したということで処理されました」

高橋「はい、メンバーはみんなそう聞いているみたいですね」

高橋は声を落としてそう言った。



159 :名無し 2011/12/17(土) 13:58:01.64 ID:XECZQF0vO
当麻「永尾さんにはこのことは一切口外しないよう注意しておきました。彼女自身もはじめからそのつもりだったようです。辛かったはずなのに、事件の後もメンバーの方々を介抱して、救急車が来るまで励まし続けていました。たいした方ですね」

当麻は昨日の永尾の様子を思い出しながら説明した。
それから何かに気付き、スタジオの入り口を振り返る。
そこには前田が不安げに立っていた。

当麻「前田さんは…?」

高橋「あっちゃんにはあたしから本当のことを話しました。脅迫状についても詳しく知っているのはあたしとあっちゃんだけなので」

高橋に目で合図され、前田はおそるおそる当麻達のもとへやって来た。
彼女もまた、来たばかりなのか、私服姿である。



160 :名無し 2011/12/17(土) 14:02:33.69 ID:XECZQF0vO
当麻「幸いメンバーの皆さんの怪我は打撲や軽い骨折程度で、命に別状はありません。完治に時間はかかると思われますが…」

高橋「大丈夫です。みんなまた元気な姿で戻って来てくれると信じてます」

表情は暗いものの、高橋は力強くそう言い放った。

高橋「みんな、大事な仲間ですから」

その物言いには、事件を起こした山内のことも含まれているのだろうと瀬文は悟った。

前田「あの、鈴蘭ちゃんは…?」

前田も山内のことが気になるらしく、当麻に尋ねる。

当麻「怪我よりも精神的ショックや混乱のほうが大きいです。しばらくは様子を見ながら事情を聞いていきます。ま、彼女からはもう何も出てこないと思いますが」

当麻の言葉に、高橋の眉がぴくりと動く。

高橋「どういうことですか?」



161 :名無し 2011/12/17(土) 14:07:05.37 ID:XECZQF0vO
当麻「どうやら山内さん、誰かに操られていたようですね。事件前後の記憶がすっぱり消えています」

高橋「操られていた?誰にですか?」

当麻「それは山内さん自身も覚えていないそうです」

高橋「そうなんですか…」

高橋はがっくりと肩を落とした。

前田「じゃあまだ安心はできないんですね…」

前田も辛そうに表情を歪める。

瀬文「警戒は続けます」

高橋「はい、お願いします…」




162 :名無し 2011/12/17(土) 14:13:01.79 ID:XECZQF0vO
高橋と前田は揃って頭を下げ、手を繋ぐと、ふらふらとした足取りでスタジオを出て行った。
その姿は互いに支え合っているようにも見える。

当麻「辛いですね。彼女達と同年代はまだ学生で、親に守られぬくぬくと生活している子がほとんどです。しかし彼女達は常に時間に追われ、体力の限界まで働く。それどころかこんな危険にまで晒されて…」

珍しく当麻は神妙な顔つきになった。
彼女がこんな表情をする時、心の底では怒りに震え、正義の炎を燃やしていることを瀬文は知っている。

瀬文「山内の言葉は、彼女達に伝えなくて良かったのか?」

当麻「はい。言っても不安にさせるだけですから。次の事件が起こる前に、必ず犯人を逮捕します」

当麻が決意の表情を浮かべる。
瀬文もそれに応えるように、強く頷いた。
普段は馴れ馴れしくてがさつな部分が目に付く当麻だが、仕事のパートナーとしては信頼できる。
瀬文は彼女をそう評価していた。

当麻「キャー、何このバッグちょーかわいいんですけど。マジどんだけー」

だが、当麻はすぐに黄色い声を上げ、瀬文を落胆させる。



163 :名無し 2011/12/17(土) 14:15:52.27 ID:XECZQF0vO
当麻「バナナ柄のバッグなんて珍しくないですか?誰のだろう」

当麻は隅に置かれた大ぶりのバッグに気を取られていた。
瀬文にはそのバッグの魅力がいまいち理解できない。

瀬文「誰のかわからないものを勝手に触るな」

瀬文は当麻を一喝する。
その時、背後で聞き覚えのあるハスキーボイスが響いた。

大島「あれー?それたかみなのバッグじゃないですかー?」

振り返ると、大島がスタジオに入ってくるところだった。

当麻「高橋さんのですか?」

大島は人懐こい笑顔を浮かべながら、当麻達のもとへ駆け寄ってくる。



164 :名無し 2011/12/17(土) 14:23:59.16 ID:XECZQF0vO
大島「たかみなバナナ柄が好きなんですよー」

当麻「へぇ、さすがアイドル。可愛い趣味してますね」

大島「……」

瀬文「高橋さんの忘れ物でありますか?」

大島「きっとそうですね。持っていってあげよう。よいしょっと」

大島はバッグを担ぎ上げた。
しかしすぐに立ち去る気はないらしく、当麻に話しかける。

大島「当麻さんはバナナがお好きなんですかー?」

当麻「はい、好きっす。だけど一番は餃子ですね。餃子柄のバッグがあったら間違いなく即買いです」

当麻は目を見開いて、気味悪く笑う。
しかし大島はそんな当麻を見ても、動揺することなく笑顔で話し続けた。

大島「餃子おいしいですもんねー」

当麻「ねー?」



165 :名無し 2011/12/17(土) 14:34:44.54 ID:7yjdQo7e0
筆者さんにゃんにゃん好きそう


166 :名無し 2011/12/17(土) 15:18:16.77 ID:XECZQF0vO
当麻と大島はまるでかつてからの親友のような振る舞いで話し込んでしまう。
そんな2人に挟まれ、瀬文は居心地悪く肩を揺すった。

――この子は確か…、子役上がりだったかな…。

瀬文はうろ覚えの知識を引き出す。
彼女の人懐こさと、警察の人間を見ても物怖じしない態度は、幼い頃から大人に囲まれて仕事をしていた経験から来ているのだろう。
瀬文はそう納得した。

――この調子だと、2人の会話はしばらく終わりそうにないな。

自身が無口なこともあり、女性の長話が苦手な瀬文は、今の状況に辟易していた。



167 :名無し 2011/12/17(土) 15:20:28.27 ID:Fd0C5wVZ0
>>164
宇都宮餃子で有名だしね



168 :名無し 2011/12/17(土) 15:21:41.09 ID:XECZQF0vO
当麻「そういえば大島さん、ぺラオ…聴いてますよ。ていうか密かに着うた設定してたりして」

大島「えー、うれしー。ありがとうございますー。で、どうですか?」

当麻「やっぱり皆さんの歌声とメロディーがすごく合ってて…」

大島「そうなんですよー。あの曲メンバーも大好きで」

瀬文「当麻、そろそろスタジオから出て、メンバーの皆さんに挨拶に行ったほうが…」

当麻「AKBの他にも皆さん色々グループ組んでらっしゃるんですね」

大島「そうなんですー。あ、にゃんにゃんもやってますよ?」

当麻「小嶋さんですね。ノースリーブスもいいですよねー」

大島「ねー?」

瀬文「当麻、そろそろ仕事を…」

大島がいる手前、強く言い出せない瀬文は苛立ちを募らせていた。



169 :名無し 2011/12/17(土) 15:23:59.20 ID:LOViWnov0
支援
SPECめっちゃ好きだから嬉しいw
時間軸的にこれは地居が死んだあとの話なのかな



170 :名無し 2011/12/17(土) 15:25:39.64 ID:XECZQF0vO
大島「あ、にゃんにゃんといえば…」

その時、スタジオ中に破裂音が響き渡った。
驚いた大島が耳を塞ぎ、しゃがみこむ。

スタッフ「あ、すみませーん」

どうやら風船を用意していたスタッフが、誤って割ってしまったらしい。

大島「あ、じゃあそろそろあたしも準備があるんで失礼しまーす…」

大島はなぜだか急に怯えたような表情になり、そそくさとスタジオから出て行ってしまった。
瀬文はそんな大島の様子が気にかかる。

当麻「知らないんですか瀬文さん。彼女、風船が苦手なんですよ」

瀬文より遥かに彼女達のデータに詳しい当麻が、勝ち誇ったように唇の端を上げる。
しかし、お陰で瀬文は先ほどまでの居心地の悪さから解放された。



171 :名無し 2011/12/17(土) 15:51:47.86 ID:GOMTE6jV0
一方その頃楽屋では、メンバー達の間に重々しい空気が漂っていた。

峯岸「でもさー、うちらもあのレッスンスタジオは通って来てたじゃん?だけど今まで突風なんて起きたことなかったよね。なんかおかしくない?」

彼女達は皆、昨日の事件を聞き、ショックを受けていた。

平嶋「構造上、ある一定の条件が揃うと竜巻みたいなのが起こるって聞いたけど…」

平嶋はそう言って、静かに目を伏せた。

北原「みんな早く怪我が治るといいね…」

北原も沈んだ表情で言った。

篠田「一応全員にお見舞いのお花は贈っておいたけど、後で1人1人病室回ろうと思う」

篠田は最年長らしく、動揺するメンバーの中でも比較的しっかりとした調子で言う。

高橋「そうだね、あたしも出来るだけ顔出すよ」

高橋は大きく頷いた。



172 :名無し 2011/12/17(土) 15:53:12.67 ID:GOMTE6jV0
高橋「きっと一番不安なのはあの子達だもん。必ず怪我を治して戻ってくるんだよって伝えてあげたい」

高橋の言葉に、メンバーは思い思い返事をした。

高橋「さ、そろそろスタジオの準備も終わるんじゃない?あたし達も支度しなきゃ」

仕切り直すようにそう言うと、高橋は手鏡を出すためバッグを探す。

高橋「あれ?」

大島「たかみなバッグ、スタジオに置き忘れてたよー」

その時、大島が楽屋に入って来た。
手にはバナナ柄のバッグが提げられている。

高橋「ごめんありがとー」

前田「優子どこ行ってたの?」



173 :名無し 2011/12/17(土) 15:54:11.95 ID:GOMTE6jV0
大島「スタジオ覗いてたら当麻さん達がいたから、ちょっと話しこんじゃった。あたしも早く準備しちゃおー」

大島はそう言うと、素早く服を脱いだ。

高橋「優子、少しは隠して着替えなよ」

高橋は大島の行動が理解できない。
メンバーの中からは笑いが起こる。

大島「いいじゃん女子だけなんだしー」

大島は気にすることなく、さっさと制服風の衣装に着替えてしまう。
高橋は呆れながらも、大島を尊敬の眼差しで見つめた。
大島が来た途端に、楽屋の雰囲気が少し明るくなったからだ。
大島が話しはじめると、メンバーは皆、事件のショックを束の間忘れることができた。



174 :名無し 2011/12/17(土) 16:13:03.22 ID:XECZQF0vO
山内の起こした事件から数日が経った。
怪我をしているメンバーも順調に回復に向かっている。
中でも一番の重症を負った市川だったが、ビデオレターでは包帯姿ながらも元気な様子を見せるまでになっていた。
打撲だけで済んだ永尾、阿部が徐々に仕事復帰を決めていくと、メンバーは事件のショックから徐々に抜け出すことができた。
少しずつではあるが、彼女達はまた元の形へと戻ろうとしている。



河西「今日ムチャぶりドッジでしょ?怖いなー」

宮澤「さっき稲葉さんごはんの準備してたよ」

河西「嘘?また?」

宮澤「うっそー」

河西「もうやめてよ佐江ちゃん」



175 :名無し 2011/12/17(土) 16:17:31.38 ID:XECZQF0vO
深夜番組の収録で集まったメンバー達は、事件のことを避けるように、わざと冗談を言い合っている。
そんな中、石田は1人苛立っていた。

――れいにゃん、アンケートも書かないでどこ行ったんだろう…。

曲がったことが大嫌いな石田は、白紙のアンケート用紙を睨んでいた。
アンケートのことは藤江も知っているはずなのに、彼女は楽屋を出たまま、まだ戻ってきていない。
どうせアンケートなど書いても、自分のものはほとんど採用されないことを石田は悟っている。
しかしやれと言われたことをきちんとこなさないのは、性分に合わないのだ。
それは他人に対しても同じである。

藤江「えー、そうなんですか?」

石田が貧乏揺すりをはじめた時、藤江はのんびりとした様子で男性スタッフと話しながら楽屋に戻って来た。



176 :名無し 2011/12/17(土) 16:20:51.95 ID:XECZQF0vO
石田「あ、れいにゃん、そろそろアンケート回収だよ。早く書いちゃいなよ」

石田はすかさず注意した。

藤江「あ、そうだったね。書かなきゃ」

藤江はそう言ってペンを持ったものの、スタッフとのおしゃべりをやめる気配はない。
年齢も若く、人懐こい藤江は、男性スタッフからの受けがいい。
石田は嫉妬にも似た気持ちで、尚も藤江を急かすが、藤江は生返事をするばかりである。
石田はそんな彼女の態度に腹を立て、そっぽを向いた。

藤江「やだ、そんな昔のこと今更言わないでくださいよー」

藤江は石田の怒りに気付くことなく、スタッフと話し続けている。


少しすると、楽屋に女性ADが入って来た。

AD「そろそろアンケート回収しますねー」

石田「ああほら、言ったじゃん。どうすんの?まだ書いてないでしょ?」



177 :名無し 2011/12/17(土) 16:24:50.29 ID:XECZQF0vO
石田は藤江のほうを振り返る。
しかし藤江はきょとんとした顔で、首を傾げた。

藤江「アンケート?大丈夫、書いたから」

藤江はそう言ってADにアンケート用紙を渡してしまう。
スタッフと会話しながら書いたのか…。
石田は藤江の器用さに呆れた。
なぜだか藤江はこういったところで、要領の良さを発揮する。
石田はそんな彼女に、時にペースを崩され、苛立ちを募らせるのだった。

藤江「ごめんねはるきゃん。あのスタッフさんおしゃべり好きだから」

いつの間にかスタッフは姿を消していて、藤江は石田に向かって許しをこうような苦笑いを浮かべた。
その笑顔に、ついつい彼女のことを許してしまう石田である。

石田「いいけど、今度から慌てないようにああいうのは早めにちゃちゃっと書いちゃったほうがいいよ。どうせうちらのなんて採用されないだろうけど」

そうはいえ、素直に彼女を許す言葉が言えない石田は、少しだけ受け答えに毒を混ぜた。

藤江「そうだねー。今度からそうするよ」

藤江が石田の嫌味に気付くことはなかった。



178 :名無し 2011/12/17(土) 16:26:04.29 ID:W3kGwykn0
支援


179 :名無し 2011/12/17(土) 16:32:06.12 ID:XECZQF0vO
バラエティの収録があるという彼女達を見張るため、当麻と瀬文はスタジオに来ている。
1人、また1人と運動着姿の彼女達が、姿を現しはじめた。
当麻は彼女達の中に、まだ見たことのない顔を何人か見つけた。
後で話を聞いてみようと、狙いを定める。

ディレクター「本番はじめます」

声がかかると、彼女達はドッヂボールをはじめた。

最初のうち、アイドルのドッヂボールと思って甘く見ていた当麻と瀬文だったが、メンバーの中にはとんでもない剛速球を投げる者が潜んでいた。
秋元である。

当麻「彼女、すごいっすね…」

当麻は瀬文にだけ聞こえるよう、小声で言った。
瀬文も小さく頷く。

瀬文「アイドルというよりアスリートだな…」

SIT出身の瀬文でさえ、秋元の鍛え上げられた肉体には舌を巻いた。



180 :名無し 2011/12/17(土) 16:33:34.86 ID:8vfCGMbZ0
はぁ追いついた

主人公を戸田に持っていかれてる予感ww



181 :名無し 2011/12/17(土) 16:41:19.29 ID:XECZQF0vO
>>180
同意。書きながらずっとそう思ってた



182 :名無し 2011/12/17(土) 16:42:39.92 ID:XECZQF0vO
どうやらボールに当たると、罰ゲームを受けるというルールらしい。
最初に当たった河西が、AD手製の気味の悪い料理を半泣きで食している。

当麻「なんで彼女泣いてるんでしょう。普通においしそうですけど」

瀬文「おそらく今ここでそんなこと思ってるのはおまえだけだぞ」

罰ゲームの内容も、アイドルらしくないものが多い。
泥棒の恰好をさせられた仁藤の姿を見た時には、さすがの瀬文も吹き出してしまった。

当麻「そろそろ終わりですかね。結構皆さん罰ゲーム受けてますし」

さっきから当麻は鼻をほじりながら、退屈そうにしている。
飽きてしまったらしい。

当麻「今日はもう何も起きそうにないですなぁ。ここ数日犯人は動く気配なかったですし。残念です」

瀬文「そうだな」

不発に終わったとはいえ、彼女達に何事もないほうがいいに決まっている。
瀬文はそう考えていた。
しかし当麻は山内から聞いた言葉を気にして、犯人の新たな動きを待ち望んでいるふしがある。

――不謹慎な奴め…。

瀬文が心の中で当麻を毒づいたその時、彼女達の中から悲鳴が上がった。



183 :名無し 2011/12/17(土) 17:42:22.25 ID:b2Wl0Dkc0
面白いです
続きよろしく



185 :名無し 2011/12/17(土) 18:14:10.71 ID:txe7rkXr0
麻里子と戸田恵梨香は全くの初対面な感じになるんかな


186 :名無し 2011/12/17(土) 18:33:55.26 ID:LOViWnov0
>>185
「当麻」だったら初対面だろうけどね



187 :名無し 2011/12/17(土) 18:56:43.93 ID:dqM4sv8R0
spec大好きだから脳内再生余裕。
続き楽しみ!



188 :名無し 2011/12/17(土) 19:11:52.65 ID:Fd0C5wVZ0
続きが楽しみ過ぎる


189 :名無し 2011/12/17(土) 21:47:28.32 ID:Fd0C5wVZ0
保守


190 :名無し 2011/12/17(土) 23:18:49.42 ID:Fd0C5wVZ0
続きが楽しみ


191 :名無し 2011/12/18(日) 00:03:35.85 ID:esJ1hAR90
続き更新まだかな~


192 :名無し 2011/12/18(日) 00:06:07.65 ID:aoeTCmSS0
犯人は米沢だな


193 :名無し 2011/12/18(日) 00:32:11.19 ID:kXH182Hs0
>>192
米ちゃん犯人のやつと同じ人なのかな?これ
あれも面白かった



194 :名無し 2011/12/18(日) 00:33:56.74 ID:s7WDB7blO
河西「やめてよ…痛いよ…」

河西が床に崩れ落ち、泣きじゃくっている。
秋元の投げたボールにでも当たってしまったのだろうか。
違う。
1人の少女が、河西に馬乗りになり、殴りかかろうとしていた。

当麻「まさかドッジボールでマジ喧嘩?」

事態を見守る当麻達の前で、少女は止めに入った秋元と宮澤を弾き飛ばす。
それから近くにいた亜美菜に狙いを移した。

佐藤亜「やめて…どうしてこんなことするの?」

少女に蹴られ、亜美菜は床を転がった。
スタッフが慌てて少女を制止しにかかるが、華奢な体のどこにそんな力が潜んでいるのか、少女はスタッフをあっさり突き飛ばしてしまう。

驚いたことに、少女は暴力を振るいながら、笑っていた。
楽しくて仕方がないといった様子で、笑い声を上げている。

瀬文「何やってんだ…」

瀬文が駆け出して、少女の右腕をひねり上げた。
しかし少女は痛がるどころか、さらに強い力で瀬文の手を振りほどく。



195 :名無し 2011/12/18(日) 00:38:27.03 ID:s7WDB7blO
当麻「ちょっと瀬文さん何やってんすか。早く止めてくださいよ。これ以上怪我人出すわけにいかないんだから、手加減してちゃだーめだーめ」

当麻がまるで他人事のように口出ししてくる。

瀬文「うるさい、本気でやっている」

瀬文の言葉を聞き、当麻の顔色が変わった。
瀬文は今、左腕を骨折している。
しかしSITで厳しい訓練を積んだ彼なら、少女の喧嘩くらいすぐに止められるだろうと、当麻は軽く考えていたのだ。

――これは普通の喧嘩じゃない。あの少女は本気でメンバーを殺すつもりだ。

当麻はそこでようやく気がついた。
これがあの少女の持つスペックの力なのか。

少女は瀬文から離れ、壁際に非難していたメンバー達の元へ突進した。



196 :名無し 2011/12/18(日) 00:39:25.85 ID:8lpXxOyf0
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!


198 :名無し 2011/12/18(日) 00:51:59.07 ID:s7WDB7blO
内田「ターーッ!」

少女に追い詰められたメンバーの中から、内田が歩み出る。
気合いを入れると、内田は少女の太ももを思いきり蹴り上げた。
少女が崩れ落ちる。
しかしすぐに立ち上がり、内田を遠くへ突き飛ばした。
内田の背中に隠れるようにしてしゃがみこんでいた佐藤すみれが、奥歯をガタガタ言わせて少女を見上げる。

佐藤す「ごめんなさいごめんなさい…」

すみれは頭を抱え、理由もなくひたすら少女に謝っていた。
少女はそんなすみれの姿を見てにやりと笑うと、近くにあったパイプ椅子を掴む。

佐藤す「キャーー」

瀬文「やめろぉぉぉ」

少女は躊躇なく、すみれの頭に椅子を振り下ろそうとした。
しかしそれを寸でのところで瀬文が制止する。

瀬文「やめろ、目を覚ませ」

瀬文と少女の視線が交差する。
少女は相変わらず笑っていた。



199 :名無し 2011/12/18(日) 00:53:24.78 ID:kXH182Hs0
にのまえくるー?!


200 :名無し 2011/12/18(日) 01:04:48.08 ID:s7WDB7blO
瀬文が少女ともみ合っている間に、当麻はメンバーを少女から遠いところへ避難させた。
その中の1人、藤江が突然叫び声を上げる。

藤江「キャーー…」

藤江は驚愕の表情で少女と瀬文のほうを見つめていた。
乱闘を繰り広げる2人のすぐ傍に、石田の姿を発見したのだ。

藤江「はるきゃんこっち、早く逃げて!」

しかし石田は腰を抜かしたようで、呆然とその場に座りこんでいる。

瀬文「このやろぉぉぉぉ」

少女の拳に、ついに瀬文は倒れた。

瀬文「怪我人だぞ。ちょっとは手加減しろよ…」

少女は倒れた瀬文にはもう目もくれず、今度は石田に向かって、まるで焦らすようにゆっくりと近づいて行った。

瀬文「やめろぉぉぉぉぉ」



201 :名無し 2011/12/18(日) 02:17:14.86 ID:YgXEi9nXi
もえのー


202 :名無し 2011/12/18(日) 03:20:40.46 ID:AHoTk0tr0
支援


203 :名無し 2011/12/18(日) 07:03:13.99 ID:DO7LMKmW0
支援


204 :名無し 2011/12/18(日) 07:35:53.76 ID:s7WDB7blO
瀬文は叫びながら、必死に自分の体を起こそうとした。
その時だった。
少女の動きが鈍くなり、ばたんと倒れる。
そのまま起き上がる気配はない。
少女は床にのびてしまっていた。

瀬文「大丈夫か?」

しかし瀬文が少女に駆け寄るより先に、当麻がやって来た。
当麻は少女に手錠をはめると、瀬文を振り返る。

当麻「気を失っています」

瀬文「何が起きたんだ?」

当麻「わかりません。突然倒れたんです」

当麻はそう言うと、石田のほうに視線を向けた。



206 :名無し 2011/12/18(日) 07:39:28.41 ID:s7WDB7blO
当麻「怪我がなくて何よりです。石田さん…」

石田は放心状態のまま、小さく頷いた。
傍には藤江が来て、石田を助け起こそうとしている。

当麻「一体なぜ彼女はこんなことをしたんでしょう…」

当麻は改めて、気を失っている少女の姿を見下ろした。
自力で立ち上がった瀬文が隣に来て、同じく少女の顔を覗き込む。
少女の運動着には名札がついており、そこにこう書かれている。

『小森美果』



207 :名無し 2011/12/18(日) 07:40:19.68 ID:TH8zRPEd0
完結してると思って読んでたら

まだ完結してなかったーーーー!!

SPEC大好きだからめちゃめちゃ面白い。脳内再生余裕 期待してる



208 :名無し 2011/12/18(日) 09:54:08.04 ID:s7WDB7blO
取り調べを終え未詳に戻って来た当麻達を、野々村が緊張感のない顔で出迎える。

野々村「で、どうだったのかな?小森さんは」

当麻「どうもこうもないっすよ。山内さんの時と同じです。彼女もまた事件前後の記憶がありませんでした」

野々村「そうかそうか、僕が思うに彼女達2人は一種の催眠状態に陥ってたんじゃないかなぁ。どうだろう?」

野々村は自分の推理に自信があるらしく、ぴんと胸を張った。
しかし当麻は考えに没頭するあまり、野々村の話をほとんど聞いていなかった。
当麻「あんな暴力事件を起こすことが目的だったとして、犯人が小森さんにやらせた理由がわからないんですよね」

野々村「理由?それはまぁ同じメンバーだから近くにいることも多いし、操りやすかったんじゃないかな」



209 :名無し 2011/12/18(日) 10:17:08.13 ID:s7WDB7blO
当麻「だとしたらグループには小森さんよりももっと適任なメンバーがいるんですよ。例えば秋元さんなんかはアスリート並みの筋肉の持ち主。小森さんではなく彼女に事件を起こさせたほうが、もっと被害を大きくできたはずです」

当麻「しかし犯人は小森さんに事件を起こさせた。何か小森さんでなければならない理由があったんですよ」

瀬文「これを見れば、その理由がわかるかもしれない…」

おとなしく話を聞いていた瀬文が、いつも持ち歩いている紙袋を掲げた。

当麻「え?何すか?何すか?」

瀬文「小森さんが事件を起こした時、スタジオのカメラが回ったままになっていた。その際撮影されたVTRをお借りしたんだ」

当麻「マジっすか?どうしたんですか瀬文さん。私が彼女達を調べることに批判的だったくせに」

瀬文「少し気になることがある」

瀬文の言葉に、当麻の表情が厳しくなる。



210 :名無し 2011/12/18(日) 10:51:24.38 ID:YgXEi9nXi
前作よりおもしれー


211 :名無し 2011/12/18(日) 10:55:37.18 ID:UjUSeTnj0
早く続き見たい


212 :名無し 2011/12/18(日) 11:41:37.22 ID:kXH182Hs0
はやくはやくー!


213 :名無し 2011/12/18(日) 12:40:49.80 ID:jc2wgoMC0
戸田恵梨香とたかみなの絡みとか想像できない(笑)

スペック映画必ず見にいくぜ!!



214 :名無し 2011/12/18(日) 13:11:17.49 ID:pTEXQw+t0
まぁそう急かしなさんなうっくり待とうぜ

にしても特別ドラマとやらはいつやるんだろうな



215 :名無し 2011/12/18(日) 13:42:30.32 ID:jc2wgoMC0
春映画決定!



216 :名無し 2011/12/18(日) 14:51:47.84 ID:DO7LMKmW0
続きが楽しみ過ぎる


217 :名無し 2011/12/18(日) 15:59:12.82 ID:AHoTk0tr0
支援


218 :名無し 2011/12/18(日) 16:20:33.13 ID:s7WDB7blO
当麻「気になること…早速見てみましょう」

当麻は右手だけで器用にVTRをセットすると、再生ボタンを押した。
映像はドッヂボールのはじめから撮影されている。
楽しげにボールを投げ合う彼女達。
その中で1人、小森は途中から妙にふらふらと動きはじめ、不気味な笑顔を浮かべるようになる。
瀬文はその表情に見覚えがあった。

当麻「あー!!」

小森が河西に掴みかかった瞬間、当麻が驚きの声を上げる。

当麻「小森さん、以前にバレエを踊っていた時の優雅な動きとは大違いですね。とても同一人物とは思えません」

画面ではすでに河西が倒れ、必死に抵抗する様子が流れている。
その後も当麻達が目撃した通り、小森の凶行が続く。

瀬文「思った通りだな…」

瀬文が呟いた。



219 :名無し 2011/12/18(日) 16:25:10.07 ID:s7WDB7blO
当麻「何ですか?」

瀬文「彼女の犯行を見た時、どこかで似た光景を目にしたような気がした。これは…ゲキカラだ…」

当麻「激辛ー?」

瀬文「彼女達が撮影しているドラマの登場人物だ」

当麻「小森さんが演じてるんですね?」

瀬文「いや違う。彼女の役名は確かムクチ…ほとんどアクションのない役柄だったはずだ」

当麻「じゃあ何で…?」

瀬文「わからない」

瀬文が首を振ると、当麻は考える仕草を見せた。
その間に野々村はVTRを見ながら、好き勝手喋っている。

野々村「ひゃあすごいねー。小森さんて子は格闘家みたいだ」



220 :名無し 2011/12/18(日) 16:31:16.73 ID:s7WDB7blO
瀬文「はい、そうなんです。バレエを踊っていた時とはまるで別人でした」

しばらくすると、当麻が口を開いた。

当麻「小森さんは特別にアクションの演技指導を受けていたのでしょうか?」

瀬文「受けてはいたみたいだが、元々そんなにドラマでアクションをする役柄ではない。それよりもゲキカラ役の松井さんのほうが指導は本格的なものを受けていたらしい」

野々村「じゃあ小森さんはどこでこんな技覚えたんだろうねぇ。ほらほら、今のとこ、きれいな飛び蹴りをしているよ。こんなこと普通の女の子がそうそう出来るわけないと思うけどねぇ」

野々村をそう言って、興奮気味に画面を指差す。
当麻は野々村を横目で見ると、静かに語りはじめた。

当麻「野々村係長の言うとおりです。瀬文さんの話を聞く限り、小森さんにあれほどのアクションが出来たとは考えにくい。彼女の持ち味であるバレエのような優雅な動きとは対極にあります。しかしこれで、犯人がなぜ小森さんに犯行を起こさせたのかわかりました」

瀬文「何なんだそれは」



221 :名無し 2011/12/18(日) 16:37:14.31 ID:s7WDB7blO
当麻「小森さんもまた山内さん同様、スペックの持ち主だったんです。おそらく小森さんのスペックは筋肉の動きをコピーすること…」

当麻「彼女はドラマの撮影現場で、ゲキカラのアクションシーンを目にしたことがあったんでしょう。その時のゲキカラの動きを、彼女はコピーしていた」

瀬文「確かに彼女は、ゲキカラの乱闘シーンを撮影していた時、その様子を見学している…」

瀬文はドラマの撮影現場での出来事を思い出していた。
小森は熱心に見学するあまり、カメラに映りこんでしまうという失態を犯している。



222 :名無し 2011/12/18(日) 16:40:34.88 ID:s7WDB7blO
瀬文「しかしそれだけで彼女をスペックの持ち主と決め付けるのは…」

当麻「いえ、それだけではありません。思い出してみてください。私達は彼女がバレエを踊る現場にも居合わせましたよね?その時、小森さんは踊る直前までバレエの舞台映像を見て動きを確認していました。そしてそのすぐ後に、完璧な舞を踊ってみせた」

瀬文「それがどうした。バレエ経験者なのだから当然だろう」

当麻「しかし彼女は3年のブランクがあります。それなのに撮影前少し確認しただけで、あれほど見事なバレエを披露することができるでしょうか?」

当麻「スポーツの世界では1日練習を休んだだけで取り戻すのにかなりの時間を要します。バレエだって同じはずです。彼女のバレエは妙に完璧すぎたんですよ。まるで直前まで見ていた舞台映像の動きをコピーしているようでした」

瀬文はそう聞いて、撮影現場での彼女の様子を思い出していた。
カメラの前で踊り終わった後、彼女は自分でも驚いているようだった。



223 :名無し 2011/12/18(日) 16:47:17.12 ID:s7WDB7blO
当麻「犯人は小森さんのスペックに気付き、何らかの方法で彼女に犯行を起こさせた。ここからわかることは2つです。犯人はスペックの存在に気付くことができる。なおかつその相手を意のままに操ることができる…。かなりの強敵です」

瀬文「メンバーの皆さんの危険はまだまだ続くのか」

当麻「そういうことになります。そして同じグループに山内さん小森さんと2人もスペックの持ち主が潜んでいました。もしかしたら他にも、彼女達の中にスペックを持った人物がいるかもしれません」

当麻「私達は犯人より先にその人物に気付き、犯人に利用されるより前に保護する必要があります。明日からさらに忙しくなりますよ」

当麻の言葉に、瀬文は厳しい顔で頷いた。



224 :名無し 2011/12/18(日) 17:29:28.68 ID:YgXEi9nXi
きたー


225 :名無し 2011/12/18(日) 17:31:57.22 ID:s7WDB7blO
翌日、メンバー達は歌番組の生放送を前に、リハーサルに挑もうとしていた。

篠田「聞いた?こもりんのこと…」

篠田は暗い表情で小嶋に問いかける。

小嶋「聞いたよー。どうしちゃったんだろうねー」

いつもはマイペースな小嶋だが、さすがに今日ばかりは昨夜の事件のショックを引き摺っているようだ。
カメラが回っているところでの犯行、さらに現場に居合わせたメンバーがはっきりと目撃していたこともあって、今回は事件についての詳細を全メンバーが知ることとなった。

宮澤「ほんとびっくりしたよ…止めに入ったけど全然だめで…」

幸い怪我のなかった宮澤は、仕事に復帰している。
しかし河西は顔に痣が残ってしまったため、しばらく休養となった。



226 :名無し 2011/12/18(日) 17:34:25.77 ID:s7WDB7blO
篠田「そういえば、ともちんもいないね…」

前田「ともちんまだ体調悪いみたいだよー」

小嶋「えー?なんか長引いているねー。風邪かな?」

小嶋の問いかけに、前田は曖昧に笑ってみせる。
事件のショックに加え、メンバーが揃わないこともまた、彼女達からいつもの笑顔を奪っていた。

前田「たかみなも前の仕事が押してるみたいで、まだ来てないんだよねー」

宮澤「優子もドラマの撮影が終わってから来るから、少し遅くなるみたい。本番には間に合うと思うけど」

篠田「うわっ」

突然、篠田は背中に重みを感じ、前につんのめった。



227 :名無し 2011/12/18(日) 17:37:45.10 ID:s7WDB7blO
松井珠「おはようございまーす」

篠田の背中には、珠理奈が抱きついていた。

篠田「びっくりしたー」

小嶋「珠理奈ちゃんおはよー」

珠理奈はメンバーの元気のなさを感じ取ってか、いつもより高いテンションで話し出した。

――珠理奈がいると、なんだか現場の雰囲気が和むな…。

篠田は考えていた。
年齢も若く、いつも元気な珠理奈は、これまでメンバーの前で疲れた様子を見せたことがない。
常に誰かにまとわりつき、下手な駄洒落やギャグを連発して喋り通している。
そんな彼女の性格は、自然と周囲の者を元気付けていた。



228 :名無し 2011/12/18(日) 17:41:35.56 ID:s7WDB7blO
当麻達がスタジオにやって来た頃には、メンバーはすっかり事件のことを忘れ、いつもの笑顔を取り戻していた。
当麻はその様子に、違和感を持つ。

――メンバーが事件を起こし、怪我人も出たというのに、この落ち着きはどういうことだろう。

山内の事件の後、メンバーはしばらく失意から抜け出せずにいた。
しかし今回の小森の事件では、一晩明けた途端にみんな元気を取り戻したように、当麻の目には映る。
とても奇妙な光景だった。

前田「あ、当麻さん」

当麻達に気付いた前田が、頭を下げてくる。



229 :名無し 2011/12/18(日) 17:45:37.95 ID:s7WDB7blO
前田「たかみなならもうすぐ来ると思いますよ」

前田はそう言って、悪戯っぽい目つきを瀬文に向ける。
内心を見透かされた瀬文は、密かに顔を赤らめた。

講師「高橋と大島は後から合流するから、みんなは先リハーサル始めるよー」

その時、ダンス講師の声がかかった。
前田は慌ててステージへと走っていくと、定位置についた。


当麻「彼女達が歌って踊るの、実際に見るのは初めてですね」

当麻はわくわくとした様子で、ステージを見つめる。

瀬文「ドラマやバラエティやコント…歌とはかけ離れた仕事ばかりだったからな」

珍しく瀬文も興味深げに彼女達の姿に目をやった。



230 :名無し 2011/12/18(日) 17:49:33.67 ID:s7WDB7blO
講師「じゃあ曲かけてくださーい」

講師がスタッフに声をかけている。
彼女達はスタートのポーズを作り、スタンバイしていた。
しかしいつまでたっても曲がかからない。

スタッフ「すみません機材トラブルでーす。もうすぐ復旧しますから、ちょっと待っててもらっていいですかー?」

天井の方から、スタッフの声が下りてきた。
結局彼女達は講師の手拍子に合わせて、ダンスのフォーメーションなどを確認していくことにしたらしい。
当麻はそこで、前田の姿に目を見張った。

当麻は彼女達を警戒する中で、何度もふとした拍子に居眠りをする前田の姿を目にしていた。
面と向かって話していても、上の空だったり、眠そうな表情をしていることも多い。
しかしステージに立つ彼女は、そんないつもの姿とは違う。
緊張感に包まれ、もの凄い集中力を発揮しているように見える。
さほど大きな動きをしているわけでもないようだが、なぜだか人の目を惹きつけるダンスを踊っていた。



231 :名無し 2011/12/18(日) 17:53:27.22 ID:hxXEdWsl0
続ききたー!


232 :名無し 2011/12/18(日) 17:55:08.39 ID:s7WDB7blO
当麻「いやー、やっぱりこじはるさんは可愛いすねー。ダンスをミスしても何事もなかったかのように踊り続けるあたり、大物の風格が漂ってますなぁ」

当麻が今度、小嶋の姿に注目したその時、スタジオに大音量で彼女達の曲が流れはじめた。
驚いたメンバーは、リズムを見失い、しばらくステージ上で立ちすくむ。
そんな中、前田だけは1人、ダンスを続行していた。
しかしすぐに彼女もまたリズムを見失ったのか、動きを止める。

講師「じゃあ次の間奏のところから続けてー」

講師が慣れた調子で仕切り直すと、彼女達はまたダンスを再開した。
途中で高橋と大島もやって来て、挨拶を済ませるとステージの輪に加わる。

当麻「さっきの前田さんすごかったですね。1人だけリズムを見失わずに踊り続けてましたよ」

当麻は瀬文に耳打ちした。
瀬文は当麻の息が臭いのか、しかめ面を作るだけで何も言わなかった。



233 :名無し 2011/12/18(日) 18:01:07.20 ID:8IdOUzy20
期待あげ


234 :名無し 2011/12/18(日) 20:24:00.05 ID:mvuH97wVO
あげ


235 :名無し 2011/12/18(日) 20:49:03.58 ID:YgXEi9nXi
またメッシ落ちかw


236 :名無し 2011/12/18(日) 21:04:27.63 ID:TH8zRPEd0
あっちゃーん!


237 :名無し 2011/12/18(日) 21:36:14.85 ID:s7WDB7blO
一通りリハーサルが終わると、高橋が当麻達のもとへ駆け寄ってきた。

高橋「すみません、バタバタしてて」

当麻「いいですよ。昨日は私達がいながら、あんなことになってしまい申し訳ありませんでした」

高橋「いいえ、当麻さん達がいてくれたから、あれだけの騒ぎで済んだんだと思います。怪我をしたメンバーも2、3日で復帰できるみたいですし」

瀬文「精神的ショックが大きくなければいいが…」

高橋「それは大丈夫です。あたしが全力でケアします」

当麻「そうですか」

高橋は力強く胸を張ったものの、表情はどこか沈んでいる。
やはり高橋自身が1番に事件を深刻に捉えてることが窺えた。



238 :名無し 2011/12/18(日) 21:39:22.51 ID:s7WDB7blO
当麻「それでなんですけど、なんかみなさん元気ですよね、事件の後だというのに」

高橋「今日は珠理奈や玲奈ちゃんもいますし、気が紛れているんだと思いますよ。珠理奈や、あと優子と佐江ちゃんがみんなを盛り上げてくれるんです」

高橋は、楽屋に戻っていくメンバー達の姿を目で追いながら、そう説明した。

当麻「あれ?市川さん復帰したんですね」

当麻はメンバーの中から、人一倍小さな顔を見つける。

高橋「そうなんです。今日から」

当麻「もう大丈夫なんですか?」

当麻は事件が起きた際の市川を思い出していた。
山内に飛ばされ、かなりの怪我を負ったはずだが…。

高橋「はい、チーム4はもう全員復帰しましたよ」

当麻「さすが若いだけあって回復力はんぱないっすね」

当麻は感心したように息を吐いた。



239 :名無し 2011/12/18(日) 21:48:43.96 ID:s7WDB7blO
高橋「あたしは忙しくて1度しか病室行けなかったんですけどね、麻里子や珠理奈がマメにお見舞い行ってくれて、元気づけてあげてたみたいです。それもあって早く回復できたんじゃないかなって思います」

当麻「精神的な面も回復に影響してきますもんねー」

高橋と当麻はそれから短く、事件についての話をした。
チーム4全員の回復は喜ばしいが、やはり小森の起こした事件について、高橋はショックを受けていた。

当麻「辛いでしょうが、今から私がする質問にお答えいただけますか?」

当麻が言うと、高橋はもちろんですと返事をした。

当麻「これだけのメンバーが襲われたんです。本当に高橋さんの目から見て、メンバーの間に恨みや憎悪を持っている人はいないと思われますか?」

当麻の質問に、高橋は全力で首を振った。



240 :名無し 2011/12/18(日) 22:34:43.23 ID:YgXEi9nXi
きてたー


241 :名無し 2011/12/18(日) 22:37:28.70 ID:8lpXxOyf0
前回と比べたらスロースピード?
他の作者と比べたら断然展開早くて助かるけど



242 :名無し 2011/12/18(日) 23:15:14.17 ID:NsjEH5sW0
ああ 待つよ 俺は待ってる 信じて待つよ


243 :名無し 2011/12/18(日) 23:25:47.52 ID:8dURja030
小森の描写が多くて作者さん小森推し?
と思いきややられたわ。続き楽しみ



244 :名無し 2011/12/18(日) 23:52:06.30 ID:s7WDB7blO
高橋「いません。前にも言いましたよね?AKBの中に人を羨んだり憎んだりする子なんて絶対にいません」

当麻は高橋の顔を覗きこみ、真意を探った。
高橋は挑むように当麻を見つめ返している。

当麻「そうですね。失礼しました。ちょっと頭冷やして、事件について整理してきます」

当麻はそう言って頭を下げると、キャリーバッグを転がしながら大股でスタジオの外へ出て行く。
瀬文が慌ててそれを追いかけた。

残された高橋はじっと床に目を落としている。

――メンバーの中に犯人がいる…?そんなのあたしは絶対信じない。

気を抜くと涙がこぼれそうだった。
高橋は力をこめて目を見開くと、頭を振って気持ち切り替えにかかる。
警察がなんと言おうと、あたしだけはメンバーを信じていかなきゃ駄目なんだ。
高橋はそう自分に言い聞かせた。



245 :名無し 2011/12/19(月) 00:53:28.47 ID:WaM0nrRm0
ほしゅ


246 :名無し 2011/12/19(月) 03:42:29.35 ID:TwSpuh1h0
今日の更新は終わりとか書いてくれたらありがたい


247 :名無し 2011/12/19(月) 03:53:25.87 ID:ddNoFZGK0
そうですね。是非お願いします


248 :名無し 2011/12/19(月) 05:26:41.05 ID:rXw74l5I0
スレタイにせめてSPEC入れて欲しかった。
最初はオリジナルかと思ったし。



249 :名無し 2011/12/19(月) 07:28:26.80 ID:2/eSIqdUi
>>248
予定調和はいらない



251 :名無し 2011/12/19(月) 08:30:32.79 ID:Ts9Deddz0
>>249
やすす乙



252 :名無し 2011/12/19(月) 08:52:51.79 ID:q2sV+ZRh0
スタジオを出て廊下の隅まで行くと、当麻は立ち止まり、考え込んだ。

――高橋さんはメンバーが犯人である可能性を否定している…。

それは無理もないことだろう。
彼女ほどグループのことを1番に考えている人は他にいないのではないか。
だけど、それゆえに見落としていることもあるのではないか。
メンバーを信じるあまり、些細な兆候や不審な点に、鈍感になってしまっているのでは。

――高橋さん以外のメンバーにも、事情を聞いてみる必要がありそうだな…。

当麻は考えを巡らす。
その時、追いかけてきた瀬文に頭を叩かれた。

当麻「痛ーい、何するんですか瀬文さん」

瀬文は頬を高揚させ、肩をいからせている。

瀬文「おまえ、さっきのあれは何だ?」

当麻「え?さっきのって?」

瀬文「どういうつもりで高橋さんにあんなこと言った?」



253 :名無し 2011/12/19(月) 08:55:01.82 ID:q2sV+ZRh0
当麻「どういうつもりも何も、高橋さんなら事件を起こしそうなメンバーについて知っているかと思って聞いてみただけですよ」

当麻の答えに、瀬文は眉を吊り上げた。

瀬文「彼女はメンバーを信じている。事件が起きたばかりでショックも大きい時だというのにそんなこと訊いたら、彼女を動揺させるだけだと思わないのか?しっかりしているように見えて、ああいうタイプが1番敏感で傷つきやすいんだ!」

当麻「へぇ、瀬文さんの口からそんな言葉出るなんて意外ですね」

瀬文「悪いか!」

当麻「いえ、ちょっと見直しました。さっきのは確かに聞き方もタイミングも悪かったです。以後気をつけます」

当麻は珍しく素直に謝った。
瀬文はまだ何か言いたそうではあったが、反省する当麻を見て言葉を引っ込めた。
その時、自分の右手に握られている物に気付く。

瀬文「あぁぁ!!」

当麻「うわっ、何ですか」

瀬文の声に驚き、当麻がびくりと肩を震わせた。



254 :名無し 2011/12/19(月) 08:56:22.50 ID:q2sV+ZRh0
瀬文「紙袋…破れたじゃねぇか…」

瀬文がどこへ行くにも必ず持ち歩いている紙袋。
それが彼の手の中で握り潰され、破れてしまっていた。

当麻「あー、そんな強く握るから…」

当麻は自分のキャリーバッグの中からピンクのエコバッグを取り出すと、瀬文に投げ渡した。

当麻「とりあえずそれ使ったらどうですか?」

瀬文は少しの間エコバッグと紙袋とを見比べて迷っていたが、渋々紙袋の中身を移し変えた。

当麻「前から思ってたんすけど、その袋の中身って何なんですか?」

瀬文「教えない」

当麻「えー、ケチー」

当麻は唇を尖らせた。
しかし実際にはさほど興味はなかったらしく、すぐに表情を変えると踵を返した。



255 :名無し 2011/12/19(月) 08:57:51.38 ID:2/eSIqdUi
おはよう!今日も楽しみにしてるよ


257 :名無し 2011/12/19(月) 09:01:45.36 ID:q2sV+ZRh0
>>255
ありがとう!今日はパソコン使えるからどんどん更新する!



256 :名無し 2011/12/19(月) 08:59:48.68 ID:q2sV+ZRh0
当麻「さ、それより私達も彼女達の楽屋へお邪魔しましょう。時間がないですよ」

そう言ってずんずんと歩き出した当麻を、瀬文がエコバッグ片手に追いかける。

瀬文「そうは言っても、おおかたお前の目的の半分は弁当を貰うことだろう」

瀬文が指摘した。
当麻はにやりと笑っただけで、意気揚々と楽屋を目指す。

楽屋に入ると、彼女達は静かに準備をはじめていた。

当麻「あのー、お弁当は…?」

篠田「え?メンバー分しか用意してもらってないですけど…」

篠田が困ったように視線を泳がせる。
しかしメンバーのほとんどは、あまり弁当に手をつけていない。
なぜだかリハーサル前とはうって変わり、楽屋は沈んだ空気になっていた。
やはり昨日の事件が尾を引いていたのか。



258 :名無し 2011/12/19(月) 09:04:28.21 ID:v4qXkdGP0
楽しみだな~


259 :名無し 2011/12/19(月) 09:05:54.12 ID:q2sV+ZRh0
高城「あ、あたしいつも本番前はおなかいっぱいにしないようにしてるんで、良かったらこのお弁当どうぞ」

当麻「あ、そうですかー?じゃあ遠慮なく」

当麻は図々しく高城の弁当を貰い受けた。
さらには渡辺、柏木からも弁当を受け取っている。
瀬文は呆れてその様子を眺めていた。

峯岸「あっちゃん、よく食べるねー」

彼女達の中ではただ1人、前田だけが弁当を完食している。

瀬文はやはり女性ばかりの雰囲気に居心地の悪さを感じていた。
人数が多いわりに楽屋が狭いというのも、瀬文の居場所を失くしている原因でもある。
メンバーが荷物を取ったり、楽屋を出ようとしたりするたびに、瀬文は壁に寄り、彼女達に通り道をあけてやらなければならなかった。
それでも肩と肩がぶつかってしまうこともあり、瀬文は平静を装いながら、内心ではかなり緊張している。


当麻がちょうど弁当を食べ終わった時、ADが本番が始まる旨を報告しにやって来た。

当麻「じゃあ私達はスタジオの隅で見ていますので、本番、頑張ってください」

口の周りに米粒をつけたまま、当麻が敬礼する。
高橋はそんな当麻を見て、苦笑いを浮かべた。

高橋「あの、ごはん粒ついてますよ」

小嶋は当麻のことが苦手なのか、あまり目を合わせないようにしている。



260 :名無し 2011/12/19(月) 09:06:33.95 ID:xgGqcDroO
AKBの高橋は二人いるんだが


265 :名無し 2011/12/19(月) 09:17:15.08 ID:bazZcisR0
>>260
そこは暗黙の了解でしょう
小嶋、前田同様



261 :名無し 2011/12/19(月) 09:10:07.03 ID:q2sV+ZRh0
楽屋を出た当麻と瀬文は、先ほどリハーサルが行われていたスタジオに向かって歩きはじめた。
瀬文は居心地悪さから解放されて、少しほっとしている。

当麻「そういえばさっき、前田さんに今度おいしい餃子屋さんを教える約束をしました。彼女ああ見えて、食べるのが好きみたいですよ」

瀬文「彼女達は芸能人だぞ。仕事とは関係ないところで個人的に会うのはどうかと思うが」

当麻「やだなー、それも仕事のうちですよ。人間、大事なことを話す時には食事をしながらと昔から決まってるじゃないですか。食事中はリラックスしていて、ついつい本音が出やすく、相手に心を許してしまいがちなんです」

当麻「最初のデートでまず食事に行くのも、豪華な食事を用意した接待も、一見無駄なように見えてちゃんと理にかなった行動なんですよ」

瀬文「お前は前田さんから何を聞きだそうとしてるんだ?」

当麻「別に。誰か対立関係にあるメンバーがいれば教えてもらおうと思っているだけです。もちろん、聞き方は考えますよ。彼女を傷つけないように」

当麻の思惑に、瀬文はため息をつく。
その時、背後から足音が聞こえてきた。



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